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「…この分じゃあ、ひょっとすると…本当にそうなるのかもしれねぇっすねえ…ねえ、トーニャの姐御…?」
とか…船尾のヨースフが、またまたぼやきを口にする。
この男ときたら…髭もじゃの口を開けば、何度も聞いたようなことばかりを、ぐちぐちと…。
「…しゃべくってるヒマがあるなら、さっさと水を掻き出しな? …どんどん、船が沈んでいるのが、お前の目には見えてないのかい?」
とか…私は、嫌味な言葉を、嫌味な口調で。
この小舟を沈めんばかりの雨水の溜まりを、手桶で忙しく掻き出しながらでは…とてもではないが、台詞までには気などは回るはずも無い。
「へえ、姐御…でも、やっぱり、屋根くらいは…付けておくべき、でしたねぇ」
とか…ヨースフは、ようやく手桶を動かしながら。
「…いまさら、仕方が無いだろうが? こちらには、時間も人手も無かったのだから…奴ら以上にね…」
とは、答えながらも…遠い前方の海原を往く『奴ら』へと、私は恨みがましい視線を向けずにはいられずにいる。
驟雨のベールに霞みながら、前を往く一隻の箱船。
大層な屋根張りのそれには、ノアという男と、その一族郎党と…あと、その他諸々が乗り込んでいる。
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