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奴らの方は…居心地の良い船室で、今頃とか…葡萄酒やらパンやらを愉しんでいるのではあるまいね…?
…だとすれば。
全く、良い気なものだね…!
こちらと来たら、定員二名のちっぽけな船が転覆しないよう…絶え間無く溜まってゆく雨水を掻き出すのに、出航この方、必死であると言うのに…!
…。
ああ!
もう…全く!
きりが無い…!
掻き出しても…掻き出しても…!
「…でも、姐御…奴ら、一体、どこに向かってるんでしょうねえ?」
とか…ヨースフ。
…その髭もじゃの口ほどに、身体が動いてくれればよいのだが。
だが、まあ…ヨースフの言うことは、私にとっても、当然に気がかりなことではある。
『奴ら』の向かう先とは、要するに、この船の向かう先でもあるのだもの。
とは、すなわち…この小船の舳先から、長く長く伸びたロープは…ノアの奴を載せた船の船尾へと、こっそりと結わえ付けてあるのだから。
ともあれ…幸い?
天候は連日、視野を煙らせるほどの豪雨。
さらには、その悪天候のために、ノアやらその他の連中やらは、船室に籠もりっきり。
よって…こちらの小船が奴らに見つかる心配は、差し当たり、無いものと言いきれる。
…いや。
それ以前に…奴らはいわゆる、『善人』…。
それならば…よもや見つかったところで、あっさりとロープを切断!…等と言うのは、無いのではあるまいか?
…たぶん。
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