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「ニイちゃんもボクを探してるかもしれないからむやみに動かない方がいいかもしれないだろ。それにどうせ泳げたってこんなに混んでちゃ自由に泳げないし」
「沖の方なら人は少ないよ。ここにいても退屈でしょ?」
「いやでもボク」
「泳ぎ方ならわたしが教えてあげよっか?」
それまで目を泳がせていた少年は思わず少女を見た。
「き、キミが?」
「ええ。その代わり、“タピオカ”ちょうだい」
「……たぴおか?」
「ええ。みんなおいしそうに飲んでるからわたしも一度飲んでみたいの」
海の家では幅広く客層を取り込むため様々な商品が売られていた。今ブームとなっているタピオカミルクティーもちゃっかりと販売されており、若い女性が波に揺られながら優雅に飲んでいる姿も見受けられる。
「じゃあ親に頼みなよ。ボク、お金ないし」
「じゃあ親に頼んで買ってもらって」
少女が自分より上手だと悟った少年は返す言葉を模索するのをやめた。
「思いっきり泳いだらきっと楽しくなるわ。ほら、行きましょ」
「え、まだキミに教わるって言ってな……」
が、有無を言わさず少年の腕を掴むと、少女はぐいぐい沖の方へ引っ張っていく。
その力は強く、まるでエンジンを積んだボートで引っ張られているほどである。
泳げない少年は抵抗できず、とうとう遊泳区域を示すブイが浮かぶところまで連れて来られた。
無論少年の足は海底には届かず、周囲に人もほとんどいないため、少年の不安感はより一層強まっていく。
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