0人が本棚に入れています
本棚に追加
◇
正午のニュースです。
アリフカを中心に猛威を振るっていたボラエ熱ですが、今しがた抗血清が開発されたと報告が入りました。治癒した人の血液から分離した血清中の抗体が、患者の治療に有効です。本開発によって、ボラエ熱感染被害が収束することが期待されます。
◇
僕は研究で生き残ったモルモットの頸静脈から血液を採取した。
そして、血清を分離して抗体価を測定し、仮性ペストの抗血清の作製に成功したのだ。以前の僕では、即座に成果は残せないであろう。『IQと視力の劇的向上』の賜物と思われた。
僕は卒論発表に向けて、データの収集に取り組み始めた。
今年の前期の成績……行われた覚えのない『防災訓練』の成績は、最高評価の『優』だった。
◆ ◆ ◆ 教授と准教授の陰のやりとり ◆ ◆ ◆
「よし。本研究室のカリキュラム『防災訓練』によって、仮性ペストの人用の抗血清を開発できたぞ」
教授は狡猾な笑みを浮かべた。
「正に、本取り組み始まって以来の快挙ですね。生徒に予防接種と称して仮性ペスト菌の人間株を接種、街にも菌を散布する。病院と提携して、まだ動物でしかその効果を認められていない『毒葡萄』のジュースを生徒に飲ませる。『毒葡萄』は、単体で飲めば人を死に至らしめるほどの猛毒ですが、仮性ペスト患者に飲ませると何と、完全に治癒するだけでなく、IQと視力の劇的向上という副作用まで発現するんですね」
「ああ。この副作用だけは、本当に予想外だったよ。さらに、仮性ペストへの人間用の抗血清まで手に入った。これで、感染症学会での最優秀賞も見えてきたぞ」
「これでまた、医学も劇的に進歩しますね。生徒から得た抗血清を増産して、街の患者達の治療にも当たりましょう。しかし……」
准教授は少しゾッとした顔をする。
「今回は成功したので助かりましたが、動物実験でも20パーセントは死に至る療法。大変な賭けでしたね」
すると、教授は冷酷な笑みを浮かべた。
「なぁに、たとえ生徒が死に至ったとしても、感染事故によるものとして処理されるさ。それに、国外でもボラエ熱のような感染症が発生……いつまた、重大感染症が発生するか分からない、このご時世を考えると、感染災害に対する『防災訓練』は我が国では不可欠なのさ」
最初のコメントを投稿しよう!