モルモットの防災訓練

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僕は研究室で、モルモットに仮性ペスト菌を注射した。 注射されたモルモットは数時間程度で発症、発咳や鼻水、下痢といった症状が起こり、元気が消失する。そして、10匹中7~9匹は死亡する。しかし、1~3匹は生き残るのだ。 その生き残ったモルモットの頸静脈から採血をして血清を分離し、抗体価を測定する。 死亡したモルモットの処理をしようとした、その時だった。 「ゴホッ、ゴホッ」 咳が出た。季節の変わり目の風邪でも引いたのかなぁ……。あまり気に留めず、死体の処理を続けた。 ◇ 午後のニュースです。 アリフカを中心に猛威を振るうボラエ熱は、どんどん感染範囲を拡大しています。患者の主な症状は、急な高熱、天然孔からの流出血、吐き気、嘔吐、消化器症状です。 患者の血液、便、吐物が感染源となりますので、充分に御注意の程、よろしくお願いします。 現在のところ、有効な治療法はありません。万が一、疑わしい症状を確認した場合、直ちに最寄りの保健所へご連絡いただきますよう、よろしくお願いいたします。 ◇ 「ゲホッ、ガホッ、ゲホッ……」 帰宅後、ますます咳がひどくなった。それに、何だか熱っぽくて体がだるい。風邪をこじらせたかなぁ……。僕は冷んやりシートをおデコにはり、野菜ジュースを飲んだ。 明日、病院へ行こう。その日は、なるべく早く寝た。 翌日。 「気管支炎ですね」 かかりつけの医師が言った。 「まぁ、風邪をこじらせたんでしょう。薬と一緒に、このタイプの気管支炎によく効くフルーツジュースを出しておきますので、食後に飲んでおいて下さい」 「フルーツジュースですか?」 意外な言葉に、聞き返した。 「そうです。葡萄ジュースで、甘くて美味しいですよ。外国産の特殊な葡萄がこの気管支炎によく効くと分かったんです」 医師は、事務的な笑みを浮かべた。 今は季節の変わり目である所為か、気管支炎が流行っているようだ。街行く人々は皆、ひどい咳をしてマスクを着用している。 僕は薬とフルーツジュースを飲み、研究室へ向かった。そのフルーツジュースは、甘味の奥に苦味のある、複雑な味だった。
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