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ネットいじめ
帰宅してからスマホを取り出し
L◯NEのアプリを開くとーー
友達からの疑惑追求の嵐が吹き荒れていた…。
咄嗟に
(見なかったことにしよう…)
と思ったが
「既読スルーは御法度」
というローカルルールが楓達のグループにはある。
予定通りに
「ヒ・ミ・ツ」
と思わせぶりな台詞を書き込んでアプリを閉じた。
ーーそう。
女装癖のある変態の事で色々心を砕いている暇は無いのである。
「茉莉がイジメられてる」という話は
母親から父親にも伝わったらしく家庭内はお通夜のような雰囲気になっている。
「茉莉の学校にもスクールカウンセラーが居る筈だからと思って学校に問い合わせたら。
予約って随分前から入れとく必要があるんだって…」
と母親の小百合が肩を落としていた。
「学校は本当にイジメを無くそうという気があるのか。許せない対応だな」
などと父親の秀矢は苦虫を噛み潰したような表情で言った。
「高校は義務教育じゃないからね」
と楓はシレッと言った。
両親が溜息を吐いた。
楓には両親が過剰反応しているように見えるのだが
(あー。でも考えてみれば、よその家庭で「家族がイジメに遭ってたらどんな家庭内雰囲気になるのか?」なんてデータは私の中には無いから、これが普通の反応なのかも知れないなぁ)
とも思った。
楓は空気の読める子供である。
昔から。
大人達が何か深刻な顔をして
何かを話し合っている場でも
大人達の雰囲気に合わせて
言葉少なに大人しく振る舞い
大人達を刺激しないようにしてきた。
そうするといつの間にか問題は解決していて、暫くすると大人達の雰囲気も元に戻っている。
楓は或る意味身近な大人達の問題解決能力を信頼しているのである。
そして霊能者見習いになって
だいぶん『此の世』というものに対する見方が変わったお陰もあり
そうした「他人の問題解決能力を信頼する」という心理的姿勢を第三者がとり、そして実際に必要なサポートをしていく事で良い具合に問題解決が進むのだという事も理解していた。
第三者が「怖いもの見たさ」感覚で
最悪の想像ばかり連想して、その想像を悩んでいる相手に投影する事が問題を拗らせる事もあるのだ。
こうした第三者による心理的視線が問題に対して齎す作用は、世間的に全く知られていない。
しかし人間が何かに感情移入したり深刻に悩んでいたりすると
その人間の中から、あの光の粒が魂の粒子が湧き出してくる。
そして他者にも共感を強いるかのように他者の魂の粒子までをも引きずり出す。
そこでまるでイメージ言語を使った情報交換が起こっているかのように粒子は互いにモールス信号のように光を明滅させるのだ。
◯玉親父もどきの恩恵を得た視力ではそれが見えてしまうので
その視力を得る前の自分の解釈とは全く違った解釈が出てくるのである。
当然の事ながら両親の魂の粒子も楓に近づいて
楓の中から魂の粒子を引きずり出していた。
なので楓は
(伝わるかどうか判らないけど)
と思いながら
両親を抱き締めて「大丈夫、大丈夫」と言うようなイメージを思い描いた。
何故かそのイメージの中で両親は小さな子供の姿であった。
途方に暮れてる様子だ。
だけど「大丈夫、大丈夫」と楓が心の中で呟き続けているうちに、いつの間にか大人の姿になって、ヤル気になったように頷いた。
「先ずはちゃんと茉莉の話を聞いてやらなきゃな」
秀矢は真剣な、それでいて全てを包み込むような穏やかな表情でそう言った…。
***************
今時の高校生のイジメというのは
一昔前の金銭の奪取や暴力とは違う。
その事実に先ずは秀矢はホッとした。
自殺しない限りは取り敢えず茉莉の命が脅かされている訳ではない、と思ったのだ。
しかし一体どんな事が行われているのかと言うと…
茉莉のSNSアカウントは全て割り出されているらしく、友達登録者やフォロワー以外を排除する設定にしておかないと、下品な野次や嘲弄が次々と書き込まれる有様だった。
そして意味ありげに書き込まれた文字を検索してみると…
某掲示板サイトの某スレが出てきて
そこには茉莉の個人情報が淫猥に歪曲されて書き込まれていた。
「セフレ募集中です」
「お喋りよりもおしゃぶりが好きな娘です」
「乳輪がデカイのが玉に瑕だが巨乳はイイ」
etc…
etc…
顔の部分が茉莉の顔に合成されたエロ画像やら局部のエロ画像がご丁寧に添付されていた。
(あちゃー。…今時のイジメって陰険だなぁ)
と、小さい頃にやったことのある友達との取っ組み合いの喧嘩を思い出しながら楓は溜息を吐いたのだった…。
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