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召喚とは何ぞや
さて竜童の仕事だが
楓はエロ漫画執筆期間は決して立ち入らないようにしている。
しかしイラスト執筆期間は積極的にチラかった資料や道具を所定の場所へと片付ける。
今回の仕事は異世界モノの小説のキャラクターデザインなので、キャラの髪型やら服装やらを考えるのが一番苦労したのだとか。
異世界モノと言えば中世衣装と近代衣装との掛け合わせになると思うのだが
原作の作風を無視する訳にはいかない。
何気にドイツ語風のネーミングやら魔女やらが登場するという事で、中世ドイツと現代オカルティズムの混淆といったイメージになったそうだ。
『Fa○n』というグループの『Walp○rgisnacht』という曲がヘビーローテーションでBGMとして流れている。
竜童先生のキャラクターデザインは
「先ずはその作品の世界観にあった音楽を聴く」というところから始まるのだそうだ。
「その世界観に合うものに取り囲まれてた方が、何かこう『降りてくる』だろうが?」
竜童が言う。
(「降りてくる」とか言われても分かるような分からんような…)
楓が首を傾げると
「インスピレーションを得るのも簡易召喚術みたいなもんなんだがなぁ」
と、竜童も説明しがたいようだった。
(そう言えば「召喚」とかいう現象も霊能者観点から見るとどういう現象なんだろう?)
「先生。召喚ってどういう現象なんでしょう」
楓が訊くと
「それを説明するには言葉だけでは難しいな。この仕事が終わったら昔正志に説明した時に描いた絵を見せながら説明してやるから、お前は大人しく飯を作ってろ」
との事だった…。
***************
「今日の昼食はシチューと温野菜サラダにしました〜」
「うん。美味い。女子高生の味がする」
いつも通りのセクハラ発言。
この先生。楓が高校を卒業した後はどういう反応をするのか、ちょっと想像がつかない。
「先生。お仕事は未だ終わりそうにありませんか?」
楓が訊くと
「ああ。それな。お前も召喚という概念について早く知りたいだろうから、正志に以前描いた説明用の絵を出してきてもらった。正志から教えてもらうといい」
竜童が答えた。
「正志さんが教えるんですか?」
楓が訝し気に眉をひそめた。
「何なんでしょうね、この子。先生の一番弟子である僕の事を兄弟子として尊重する気持ちが足りてないですよね?」
正志が不快げに眉をひそめた。
「偶には兄弟子らしく自分の優れている所を見せてやれ」
竜童が頷きながら指示した。
(正志さんに優れた所があるような言い方だな…)
「それでは正志さん。よろしくお願いします」
楓は素直に頭を下げておくことにした。
さて召喚というものについて理解できるように教えてもらえるという話だが
竜童が食事を終えて仕事場に戻ると
「まあ、とりあえずコレを見てください」
と正志が何かの図を取り出して見せた。
『糸玉の絵』と『円の周りを数字の書かれた帯が取り巻いてる絵』が描かれていた。
「えーと。コレはナンデショウカ…」
と楓は直ぐにギブアップした。
「そうだよね。分からないよね。こんな絵じゃ。コレを見て分かった僕は凄いと思うよね?」
と正志が自画自賛した。
それから正志は
びっしりと数字の書かれた細長いリボンと
手芸用の発泡スチロールの球を取り出した。
そして球にリボンを巻き付けた。
「はい。できました。コレが『この世』という空間を外から見たイメージです」
と正志が言った。
「はあ」
と楓が間抜けな声を出した。
(球にリボンをグルグル巻いただけじゃんか)
次いで正志は裁縫箱からマチ針を取り出して、リボンの巻き付いた球にマチ針を突き刺した。
「これが『受肉』です」
と正志が告げた。
「んー…」
楓が首を傾げると
「蘇芳さん。残留思念を思い出してください」
と正志が言う。
「残留思念は我執の周りを念が糸のようにグルグルと巻き付いて形作られてましたよね。実は『此の世』という空間も成り立ち自体はそれと似ています」
正志がそう言うと、
やっと楓も腑に落ちた。
「僕達が現実だと思っている空間は、この場合は針が食い込んだ球の表層部分に該当します。
その周りを幾重にも異空間が大気圏のように取り巻いています。
それを貫いて『霊魂存在』は『この世』へと『受肉』…つまり最初の生を体験します」
「そして生まれて来て、死んで、元々の居場所へと帰る際には『水の中の空気』のように浮き上がっていきます。
そして浮かび上がって『帰還』しようとする途中で、このリボンのように巻き付いている異空間の何処かに迷い込みます。
それによって最初の転生以降も霊魂存在は地球から逃げられずに輪廻転生し続けることになってしまいます。
或いはマチ針を刺して球に付いた穴、これは自我に該当しますが、この穴にはまり込んで浮かび上がる事さえ出来ない場合もあります」
「こうした見方は『この世』を抽象的に見た捉え方の一つです。
召喚とは『受肉を伴わない顕現』です。
つまり球にリボンーー異空間が吸着する事です。
その異空間には『そこに囚われている霊魂存在』がいる場合もあります。
実質的には『異空間』を『人間の認知できる領域または人間に影響を及ぼし得る領域に呼び込む』事が『召喚』なのです」
「そしてこのリボンには数字を書いてますよね。
万物は『固有振動数』を持っていると言われますが、それは魂や自我などといった『意識体』に関しても言えることです。
全ての意識体が『自分のベースとなる周波数体』を『ネット内で登録したサイトのアカウント』のように保持しています。
そしてネット内では『アカウントという個の空間』を保持しながら『公の空間』にもアクセスして情報を得られるように、意識体もベースとなる周波数体の他に重複して複数の周波数帯の影響下に存在しています」
「魂というのは肉体を必要としない意識体なので、生き物は肉体を維持する為に『自我』という意識体を必要とします。
洗脳やマインドコントロールで自己防衛意識を否定させ『利他的になれ』と誘導するのは『自我の剥奪』『アカウント乗っ取り』と似たような行為です。
なので日本で宗教や平和思想が『日本人の集団的自己防衛意識を否定』しているのは、一種のカルトだと思って良いでしょう」
「『召喚』という行為は『神霊存在を可視化する』ことだと思われているのかも知れませんが、そうではありません。
『召喚』はネットでいうダウンロード、インストールです。
『神像の可視化』は『アプリアイコンの認知』に過ぎません。
アイコンはアプリの中身を表したものであるべきですが、必ずアイコンのイメージとアプリの中身は一致しません。
それを知っておかないと、素晴らしいものを召喚したつもりで、恐ろしいものを召喚してしまうこともあります」
正志がそう言うと
楓はしみじみと
(正志さんの説明が全て理解できた訳じゃないけど、「この世に生きる」ということが「ネット空間に存続する」ということとよく似てる現象だと言うことはよく判った)
という感想を持った。
「思ったんですけど。
一番最初に生命体として受肉する時というのは、まるで隕石の落下ですね。
それで隕石に付着してた要素がそのまま地球に定着してしまうのが輪廻転生に該当するのでしょうか?」
楓がそう言うと
楓がちゃんと理解が出来てる事を喜びながら
「まあ、そんな感じですね」
と正志が頷いた。
楓は更に素朴な疑問を感じたので尋ねる。
「霊魂存在が地球圏に『受肉』した後地球に囚われる仕組みは分かりましたが、これだとドンドン地球圏に囚われる霊魂存在が増える一方ですよね?
一旦入るともう地球圏から逃げられないんですか?」
正志は分かる分かるという風に頷いてから
「それ、僕も思ったんで先生に訊いたら『カルマ清算の為の生』というものを終えると逃げられる、という話でしたよ」
と答えた。
「カルマ清算ですか?」
「シガラミを解消する為の悲惨な人生を送って、死んだ後に一定量以上の魂の粒子が欺瞞や執着を捨てて、凡ゆる異空間の誘惑をすり抜けて浮かび上がったら『清算が果たされた』事になるんだって」
その話にも疑問が湧く。
「それって『一定量以上の魂の粒子』が逃げられるってことですよね?
つまり『本体』は地球から逃げられても『分体』は地球に取り残されたままになるとかじゃないですか?」
楓が訊くと
「鋭いね〜。それは当然、僕も尋ねた。先生の話だと『残る』らしいね」
正志が答えた。
「それってどうなるんでしょう?」
「魂の粒子は普通に生きてるだけでも自分の中ものが他人の中に入り込んでそのまま他人のものになったり、自分の中に他人のものが入り込んでそのまま自分のものになったりする事が多いらしい。
でもそういう霊魂はかなり我執が強くて怨念に囚われてるから迂闊に近づくと大抵の場合ミイラ取りがミイラになるそうだよ」
「…他人の魂の粒子を自分の肥やしにしようとするのって、モンスターハントみたいなものだと思って良いんでしょうかね?
『悪鬼羅刹を調伏して強力なシモベとする』ような感じで」
「多分ね」
(…残留思念や心的残像を調伏するのも大変なのに、霊魂の分体を調伏するとなると相当難しそうだなぁ)
と楓は思ってしまった。
モンスターハントなんてヤル気ゼロ…。
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