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また、いつか…
「なんだよ、そんな顔すんなよ。」
勝手なことばかり……
「この世には、男なんて星の数ほどいるって。
おまえなら、すぐに良い人と巡り合えるよ。
……俺なんかよりずっと良い人と、な。
じゃ…またいつか……」
それだけ言って、彼は席を立った。
そして、一度も振り返ることなく、店を出て行った。
「ごめん、好きな人が出来た。」
そう言われたのは、ほんの少し前のこと。
それまでの彼には変わったところなんてまるでなくて、だから私は彼の気持ちの変化には全く気付くこともなく、近々始まるであろう彼との生活を夢見てた。
「え…?今、なんて……」
「だから…他に好きな人が出来たんだ。」
「う、嘘でしょ?
だ、だって、私達……」
「本当にごめんな。じゃ……」
あまりにショックが大きすぎて、私はなにかを言うことも、涙を流すことも出来なかった。
次の日には、彼の携帯番号もメアドもすでに変わってた。
冗談でもなんでもないんだ……その時になって、私はようやく事の重大さに気がついた。
それから数日後、彼から電話があった。
少しだけ会いたいというその電話に、私は期待を胸に二つ返事で出て行った。
やっぱり、私のことが忘れられなかったんじゃないかって…
でも、そうじゃなかった。
私が今まで彼に贈った衣類やアクセサリーを返されただけだった。
そこまで私のことが疎ましくなったのかと思うと、心が張り裂けそうだった。
私はそれをそのまま駅のごみ箱に投げ捨てた。
動物や植物や子供やお年寄りが好きで…
誰よりも優しく思いやりのある人だと思ってた。
それが、一人の女性の出現でこんなにも変わってしまうなんて……
悲しくて、悔しくて……泣いたりわめいたり、やけ酒を飲んでみたり……
体調を崩したり、好きでもない男性と付き合ったり…
……すさんだ日々を生き、気が付けばもう七年も経っていた。
彼を忘れるために七年もかかったなんて、本当に悔しい。
だけど…それは、私がそれほど彼のことを愛していたせいだと思う。
でも、もう大丈夫。
住む所も仕事もすべて変え、私は今生まれ変わった気分だ。
(もう恋愛なんてしない。これからは一人で生きていくんだから。)
私は仕事に打ち込み、それなりに充実した日々を過ごしていた。
そんなある日……
「由美……」
不意に名前を呼ばれ、振り返るとそこには、放心した様子の彼が立っていた。
一気にあの日の事が思い出され、私の鼓動は速さを増した。
「ずっと探してたんだ…」
彼の目にはうっすらと涙が浮かんでいた。
私にはその涙の意味がわからなかった。
それに、探してたって……
「由美…」
「離して!」
私は伸ばされた彼の手を払いのけた。
「頼む、話を聞いてくれ。」
その時、私は彼の腕にあるものに気が付いた。
付き合い始めて最初の誕生日に彼に贈った腕時計だ。
どうして?
あの時、私があげたものはすべて突き返されたはずなのに…
その疑問のせいで、私は彼の話を聞く気になった。
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