彼女のとなり

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 花火大会の会場を行き交う道路は渋滞にハマると、苛立つ海志のことをよそに、夏奈は双眼鏡をのぞいた。  同時に携帯電話が鳴る。  画面を見た夏奈は慌てて出た。 「見えた?」 「え?」  深冬の声が雑音に混ざって遠くに聞こえる。 「ヒロ君に気付かれないように、こっち見て」  弾んだ声だった。 「軽トラに双眼鏡って、目立つよ」  右手に双眼鏡、左手に電話。  軽トラの振動に耐えながら深冬を探す。 「こっち、こっち!」  双眼鏡越しに目が合うと、その声を近くに感じた。 「え? どうしたの? 一人?」  浴衣姿の深冬が、ビルの壁にもたれて手を振っていた。  夏奈は思わず双眼鏡を離し、裸眼で周りを確認した。  聖巳の姿は見えない。 「カナちゃん、そのままで聞いて」  車から降りようとした姿を察知して言った。 「楽しい?」 「え? 何?」  夏奈は周りの音に苛立った。 「すぐ戻る!」  運転席の海志にそう言い放つと、夏奈は勢いよく人ごみに飛び込んだ。
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