16人が本棚に入れています
本棚に追加
花火大会の会場を行き交う道路は渋滞にハマると、苛立つ海志のことをよそに、夏奈は双眼鏡をのぞいた。
同時に携帯電話が鳴る。
画面を見た夏奈は慌てて出た。
「見えた?」
「え?」
深冬の声が雑音に混ざって遠くに聞こえる。
「ヒロ君に気付かれないように、こっち見て」
弾んだ声だった。
「軽トラに双眼鏡って、目立つよ」
右手に双眼鏡、左手に電話。
軽トラの振動に耐えながら深冬を探す。
「こっち、こっち!」
双眼鏡越しに目が合うと、その声を近くに感じた。
「え? どうしたの? 一人?」
浴衣姿の深冬が、ビルの壁にもたれて手を振っていた。
夏奈は思わず双眼鏡を離し、裸眼で周りを確認した。
聖巳の姿は見えない。
「カナちゃん、そのままで聞いて」
車から降りようとした姿を察知して言った。
「楽しい?」
「え? 何?」
夏奈は周りの音に苛立った。
「すぐ戻る!」
運転席の海志にそう言い放つと、夏奈は勢いよく人ごみに飛び込んだ。
最初のコメントを投稿しよう!