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「もしもし? 深冬? 聞こえる?」
「うん。聞こえるよ」
「今そっち行くから。待ってて」
「カナちゃん、ヒロ君と一緒で楽しい?」
「楽しい訳ないじゃん! 海志は深冬のことが心配で」
「私も楽しくないから」
会話を遮った深冬の声は力強かった。
「私もキヨミちゃんのことは男として見てないから。安心して」
「深冬? 何言ってるの?」
「カナちゃんが私によく言う台詞」
花火大会の終わりを告げるアナウンスやクラクションの音が、二人の耳にこだまする。
「海志は私のこと、女として見てないから!」
「キヨミちゃんも私のこと女として見てない!」
「聖巳は深冬のことを女として見てるよ!」
「ヒロ君もカナちゃんのこと、女として見てる!」
「んな訳ないじゃん!」
「お互いさまじゃん!」
人ごみの中での会話は叫び声に近い。
浮かれた者ばかりでごった返したこの場所では、誰ひとり気に留めなかった。
「深冬!」
夏奈がビルに着いた時には、すでに深冬の姿はなかった。
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