彼女のとなり

6/12
前へ
/12ページ
次へ
「一般教養の井上先生の教科書を持つ手見て」  今日その授業で深冬は確認済みだった。  その指は細く長く、スッと伸びていた。  教科書を持つ手の甲は血管が浮かんでいて、目の前で傘を持つ男の手と比べた。  夏奈の好きな男の手。  夏奈の言う手の綺麗な人。 「夏奈なら大丈夫だよ」 「え?」 「彼女は恋している自分に恋しているから」 「え? どう言う意味?」 「だから、次興味のあるものを見つけたから、もうキヨミちゃんの事は追わないってこと」  一瞬、残念そうな顔をした聖巳の顔を深冬は見逃さなかった。 「ねぇ、ちょっと手触ってもいい?」  深冬は返事を聞くのを待たず、聖巳の手の甲の一番太い血管に触れていた。  手の綺麗な人がイケメンなのか。  イケメンは手が綺麗なのか。  深冬は恋人の事を考えた。  ゴツゴツして短い指。  現場で汚れた手は、爪まで真っ黒だった。 「夏奈は面食いだから、ないか・・・・・・」  最後にそう呟いた深冬を思い出し、聖巳は電話をした。
/12ページ

最初のコメントを投稿しよう!

16人が本棚に入れています
本棚に追加