ガラケーの中の彼女

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「うそだろ……」  僕はスマホに機種変更して、このガラケーには通信機能はないはずなのに。  そんなことを思っているうちに、一件のメールが届いた。僕は恐る恐る、それを開いてみた。 『さーくん、久しぶり! 元気してた? ちゃんと、栄養のあるもの、食べてる? 心配してるんだ。だってさーくん、私がいないといっつもカップ麺ばかりだし(苦笑)』  誰だろう……?  僕の名前は智(さとし)。昔、確かに『さーくん』と呼ばれていたことがある。だけれども……誰に、だったかどうしても思い出せない。  差出人の名前は登録されていない。しかし、差出人のメールアドレスを見ると、僕はまた、ツーンと偏頭痛がした。  そして……僕はまるで自動的に、そのメールに返信した。 『うん。僕、今は実家暮らしだから、食生活はきちんとしているよ』  そして、思い切って送信ボタンを押した。  たったそれだけのメール……だけれど、僕の心臓はバクバクと高鳴っていた。  だって、メールの相手が誰なのか分からないし、何より、あり得ないことなのだから。  すると、程なくして。  ガラケーはまたも、メールの受信画面に切り替わった。 『そっか、それなら安心だよね。でも、ちょっと残念……。だって、ひとちゃん特製の野菜たっぷりクッパ。その作り方、教えてあげようと思ったんだけどね』  ひとちゃん……? 野菜たっぷりクッパ? その言葉を見た途端、またもツーンと偏頭痛が起こって。 「仁美(ひとみ)……」  僕の口からは、またもまるで自動的に、その名前が出た。
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