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やがて花火も終わり、時刻は九時を過ぎた。そろそろ会場の人ごみもマシになってきてるかな。
そう思ったとき、目の前にあった穴が一度閉じられ、再度別の穴が作られた。穴の先には、自宅の玄関。どうやら約束通り家の前まで繋げてくれたらしい。
「この穴をくぐっていけば、そのまま家の前に出れるよ」
「そっか、うん」
どこか淡々とした、優しいけれど抑揚のない声で喋る多野屋くんに、私もあっさりとした返事をする。
この不思議な場所とも、またしばらくお別れか。
穴をくぐり、玄関の扉を見つめたまま立ち尽くす。後ろから多野屋くんの不思議そうな視線を感じながら、私は言おうかどうしようか迷った言葉を伝えるために振り向く。
「また、ずっと一緒にいてくれてありがとう、“のやくん”」
「……えっ!?」
昔の呼び方で呼んで、ひどく驚いた顔をした多野屋くんを最後に、私は家に入った。
「そういえば、結局何も食べれなかったなあ」
……まあでも、これはこれで特別な花火大会だよね。
多野屋くん、次に学校で会ったときに同じように呼んだら、どんな反応するのかな?
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