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「実は、僕には昔から、『穴』と『空間』を作る力があって、ちょっと咳してるから駄目って親に言われてた花火大会も、うちから会場近くに『空間』を作って、そこへの『穴』をうちから繋げれば風邪気味でも花火が見れると思って……」
「それが何故か他の場所にも繋がっちゃって、そこに私が迷い込んだ、って?」
「多分。本当にごめん」
言われて私が落ちてきた穴がある場所(この空間で言う天井)を見上げてみてもそこに穴はなく、他に出口らしきものもない。
まるで、あのときの場所みたいだ。
……あのとき?
「何か私、この場所を知ってるような」
「えっ!?」
「ん?」
何気なくぽつりと呟いたことに横から反応が返ってきて、そちらを見れば何故か目を見開いて、頬を赤らめて、ついでにマスク越しでも分かるほどに口もあわあわと震わせて、明らかに動揺している多野屋くんの姿。……何故?
「何で多野屋くんが驚くの?」
「あ、いや、……気にしないで」
赤い顔のまま瞼を閉じ、気恥ずかしそうに右手の人差し指で頬を掻く多野屋くんを不思議に思いながら、私はそれ以上訊くことをやめた。
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