しらなみゆきの災難

01.さしすせそ

「ユメさん、次のご指名お待ちです」
付け回し担当の黒服が私に声を掛ける。

「待ってて。お見送りだけ」

池袋のキャバで働いていたけど、ストーカー被害に遭って、逃げるように仙台へ来た。
丁度、オープニングスタッフ募集してたのが、ここだった。
2か月目だけど、既に私も上位ナンバー。
今月号の情報雑誌『BUN-BUN-BURN』には特集ページが割かれている。
カバーガールとしてオファーが来るのも時間の問題。

次の指名客は……あぁ、先週も来た人だ。
アルコールがダメで、コーラだけの人。
本人はセット料金で、延長してるから、私の売上に貢献してると勘違い。

正直、ボトルキープもシャンパンもなく、5時間居られるよりも、
高いお酒を頼んで1時間でさっさと帰ってくれる方が、相当ありがたいっつーの。
モエじゃなくペリエのベル・エポック・ロゼを入れた、さっきのお客みたいに。

デザインオフィス ラピュタ代表　六平崇幸(むさか たかゆき)。
私は、彼の名刺をもう一度見て、ゆっくりと次のテーブルへ向かった。
作り笑いの営業スマイルを貼り付けて。