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「あれ? 鈴木さん?」
聞き覚えのある声がした。振り向くと、白井がいた。
「あ、あれっ? し白井いく、君かか?」
去年まで勤めていた大学研究室で一緒に働いていた白井がいた。驚いた顔に人懐っこい笑みを浮かべて俺を見ていた。
『一緒に働いて…』といってもこの白井とは同じ大学内で事務補助として働いていたいたはだが、研究室が違うので、昼休みに一緒に食事を取る程度の仲であった。
白井はかなりの毒舌なのだが、表面上は人懐っこく、俺とは違い人当たりが良い。誰からも気軽に声を掛けられ、また掛ける事ができる。故に、彼には情報が集まり易く、いろんな出来事や人間関係を詳細に知っていた。なので、俺は昼食の際にはいろんな事を相談していた。また白井も俺からいろんな情報を知りたがっていた。
俺は、白井を心の中で『情報家』と呼んでいた。
そんな情報家は、俺が研究室で揉め始める前後、いつの間にか姿を消していた。
いつの間にか、辞めていたのだ。
そんな白井とは、その大学研究室の前に働いていた南区の精密工場からの付き合いであり、白井はその頃から人間関係の構築や人付き合いが得意だった。
大学研究室の揉め事や、俺の今の"騒動"にも彼からの情報が役に立っていた。
「…ああ、し白井くん、あの研究室、や辞めたのの?」
「…、あ、はぁ。辞めましたよ。あっ、鈴木さんに挨拶してませんでしたね」
そう言って、白井は慇懃に頭を下げた。考えてみたら、大学の研究室に勤めていた時、昼休みに一緒に昼メシを食うだけだった俺に退職の挨拶など必要ではない。俺自身、白井が"消えた"事に気付いたのは、俺が辞める間際だった。
「まあ、良いい、いんじゃなない?」
「……(苦笑)」
意外なところで再会した。ちなみにこの白井は俺の病気の事は理解している。
「し白井、くん。今まは、な何か、や、やってんの?」
「実は、派遣してまして…」
少し呆れた。
白井と出会った精密工場では互いに派遣社員として採用されたのだった。その後、白井は待遇の悪い派遣職やその派遣先の工場の横暴さをよく俺に愚痴っていた。
(明るい見た目とギャップがあるなぁ、コイツ…)と思っていたが、また非正規の派遣をやっているのか。
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