公園で

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 日が傾いて来ると、公園から子供たちの姿はなくなった。赤紫色に照らされた公園にはスーツの男がぽつりとひとり残されていた。彼の周りからじわじわと広がった静けさが公園全体をすっぽりと包み込み、風だけがささやかな葉音(はおと)を誘っていた。 「そろそろ出ませんとパーティーに遅れます」  突然、透き通った女性の声が公園に響いた。木々は驚いて一瞬動きを止める。6時前のことであった。  男はハッと顔をあげ、眼鏡を直した。鞄から眼鏡ケースを、その中から小さな布切れを取り出し、眼鏡を()きながら、誰ともなく語りかける。 「もうそんな時間か。ありがとう。今日眼鏡に入力したやつは文書ファイルにしてアップロードしておいてくれ。」 「アップロード先は会社のサーバーですか?」 「いや。まだ出来上がってないから俺個人のサーバーでいい。終わりはしなかったけれど、ずいぶん進んだよ。やっぱり公園は程よく雑音があって集中できるね。この格好はさすがに浮いてしまったようだけど。」 眼鏡ケースが放り込まれるのを待ってから、鞄が興味なさげにフォローする。 「今夜のパーティーにはドレスコードがあるのですから仕方がありません。」 「なんか変なところないかな。こんな服、滅多に着ないから…。」 男は息苦しそうに首元を気にしながら言った。 「特に問題無いのでは?それより、向かう途中で花を調達する予定ではありませんでしたか?」 軽く流された男は少し口を(とが)らせたが、我にかえって焦りはじめる。 「そうだった。すっかり忘れてた。時間あるかな。」 「その時間も込みでお声がけいたしました。駅前の花屋も開いていますし、列車の遅れ等も無いようです。心配はないかと。」 「さすが。いつも助かっているよ。」 男は鞄と話しながら足早に公園を後にした。
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