二〇一九年、八月十五日。

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 ***** 「本当はこちらからも行かなければいけないのにすみませんね」  母は並んだ三つの湯飲みに緑茶に注ぎながらふと奥の間に目を走らせた。  そこの仏壇前にはまだ額縁も真新しいお祖母ちゃんの遺影と今からほぼ四十年前に撮られた一葉の写真が並んで置かれている。  その写真に笑って映っているのは、朱鷺(とき)色のワンピースを着た私のお祖母ちゃんと臙脂(えんじ)色のチャイナドレスを纏ったアニタのお祖母ちゃん。 「お祖母ちゃん」といっても当時は二人とも四十歳。豊かで艶やかな黒髪に大きく円らな瞳の風貌が並んだ様は白牡丹と緋牡丹のようだ。  そんなことを思う内にふわりと柔らかな緑茶の匂いが鼻先を過ぎる。  振り向くと、母はもう私とアニタの前に湯飲みを置いて自分の湯飲みにも口を着けようとする所だった。 「揃って初盆ですからね」  一口含んだ母は微かに苦い面持ちになる。
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