二〇一九年、八月十五日。

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「気にしないで下さい」  アニタはいつもの人懐こい笑顔で片手を横に振るが、ふと思い出した風に目を落とした。 「香港は今、危ないですから」  ネットの写真や動画で目にしたデモや警官隊の物々しい光景がふと蘇ってきて胸を刺した。私にとってはまだメディアの中の事件だが、彼女には生活そのものへの亀裂に違いない。 「中国に(かえ)れば遅かれ早かれこうなると思ってたってママも言ってました」 「サミーが?」  従姉の名を口にする母の目に一瞬、懐かしげな光が通り過ぎた。
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