乗車

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 駅構内は暖かだったが物静かで寂しかった。切符を買った私は、壁にかかっている時計を見る。次の電車がくるまで一時間はある。私はため息をつきそうになったので、深呼吸に変えた。一連の動作を見ていた駅員は私と目が合い、気まずそうに自身の手元にある紙に視線を移した。退屈そうに見えるのは私だけではないはず。  外は風があるが暑すぎる。窓の外では「板そば」ののぼり旗がゆうゆうと泳いでいる。時計の下にあるベンチに座り、イヤホンをつける。後ろに寄り掛かり見上げてみると、積乱雲が見えた。 「…………雲だ」  気づけば電車がくるまで残り10分ほど。私は歩廊に立つと強い風を感じた。風の音が聞きたくてイヤホンを外す。こいのぼりに負けないくらいの舞い上がるスカートを私は放っておく。誰かいたとしても今日の私はそうしただろうか。うとうとした赤ちゃんの目と同じ、ゆっくり閉じて開く私の目。眠気に襲われていたわけではないが、轟音とともに私は目を覚ましたように大きく開かれた。  向かい合わせになっている席に座り、横に紺色のスクールバッグを置いて外を見る。先ほど駅構内で見たのぼり旗が目に入った。シートは年代がかかっていてかけ心地がよかった。少しカビ臭くて空気の入れ替えをしたくなる。景色を眺めながら風が欲しいと思う。 「…………寝よっかな」  
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