最後の受付

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 人ごみをかき分けて進む。どんなに時間が流れようと、人ごみは消えない。  漢字で書けば「人混み」だが、「人ゴミ」にしか思わない。武蔵は鬱屈とした気分で、天に青空の存在を忘れたかのように足を進める。  今日の仕事もどうせつまらないだろう、と武蔵は眉間に皺を寄せながら交差点の信号にたどり着いた。  炎天下の中、クーラーを仕込める最新式の服を身にまとった男性が、時計から出る映像を眺めながら信号を待っている。空を自由に飛べる車は開発されたが、空の交通網が整備されずまだ飛ばせない。だが、一部の金持ちは乗れるのか、ハエのようにも思える車の音が空中から聞こえる。また事故を起こし、ネットでは非難の嵐だろう。  武蔵は最新の技術がどうとか、ノリに乗っている音楽など流行には疎い。何年前に買ったのかわからないワイシャツを身にまとい、一歩間違えれば尻の部分が破れそうな紺色のズボンを履き、仕事に向かう。ズボンの中は、通気性が悪いせいか汗が溢れ出し、着ているだけで気持ちが悪い。  武蔵は最新の技術は分からないが、最新の場所で働いているという自負がある。  誰も通らないような、ビルとビルの合間を抜ける。進んでいくと、先には廃れた商店街があり、その一角にある喫茶店に入る。  今日も常連の客は一人であり、しわがれた男性は噛みタバコをくわえ、新聞を読んでいる。タバコには火が付いていない。タバコは日本では、大麻と並んで禁止薬物となった。  武蔵はその常連客を横目に喫茶店の奥へと進んでいく。奥には木の扉があり、それを開ければ鉄の扉が存在する。彼は手馴れた手つきでパスワードを入力し顔認証を済ませ、扉の先に進んでいく。
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