最後の受付

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 とりあえず大通りに出てきた。だが、武蔵の高校時代の姿は見当たらなかった。少し大通りを進んだところに、小道がある。  そうだ、この日は小道を通って帰ったのだ。小道に近寄っていくと、声が聞こえた。 「武蔵、もうちょい冷静になって考えろよ!」 「俺は冷静だ」 「お前が夢追いたいのは分かるけど、ちょっと早すぎじゃない?」 「夢を追うのに、早すぎも遅すぎもない」  武蔵は、すべての記憶が一気に蘇った。  高校二年生の冬、漫画家になりたいと言う夢を捨てきれず、学校を辞めて東京に行きたいと考えていた。漫画なんて一冊も書いた事がなかったのに、今の環境から抜け出すために夢を持とうと思った。友人の弘佑にも止められたがそれを振り切って家に帰って親を説得しようとした。  しかし、父親と口論になり親を突き飛ばしてしまい、父親はよろけてタンスに角をぶつけてしまい、父親は重症に陥った。  父親は寝たきり状態になり、仕事も出来なくなった。そうなると武蔵は、働かざるを得なくなり、高校に行きながらバイト漬けの生活になった。逃げ出したかったつもりが、自分をさらに苦へと追いやってしまったのだ。  どうしても、この時の自分に言ってやりたかったんだ。夢を追うのも大事だが、今やれることをやれ。逃げてもいいが、今は逃げるべきところではないと。  弘佑との口論を終え、一人帰路に向かう、高校生の武蔵が歩いている。  一歩を踏み出す。
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