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だが不思議なことに、ここにやってくる人々は希望に満ち溢れた顔をしている。今からどんなことが起きても大丈夫、という顔つきである。だからこそ、余計に気になる。
ここでは、必要最低限の会話はしてはならない。そう上から言われている。
これを破ると解職されてしまうこともある、と聞いた。武蔵は、やっと手に入れた、給料も仕事内容も良いこの仕事を手放すわけにはいかない、と固く決心していた。
だいたいよく聞かれることは、
「なんでこの仕事されてるんですか?」
という質問である。
武蔵は、自分でもこの質問に対する解答は持ち合わせていない。そのため、無言で会釈し、「この扉を開けて先へ進んでください」と言うと、だいたいそれ以上のことは聞かれない。
それほど自分には興味がなく、この扉の先にあるものにしか興味がないのだ、と思わされる。人間なんて皆自分のことしか興味がないのだろう、と失望でもない、希望でもない気持ちが頭の中で駆け巡る。
今日も誰もこないで欲しいな、と武蔵は思いながら、椅子にもたれながら斜め前に設置されている防犯カメラに向かってメンチを切った。
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