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その日は、昨日を指定した男しか来なかった。
翌日、今日も誰も来ないでほしいなどと思っていると、驚くことが起こった。
皆が入っていく扉から、昨日の男が出てきた。理解が追いつかなかった。
男は、何事もなかったように昨日と同じ顔で扉から出て行き、階段の扉に向かっている。
「あの!」武蔵は思わず声をかけてしまった。
「はい?なんでしょう」男は顔だけこちらを向けた。
「いえ、なんでもありません。お気をつけて」
武蔵がそう言うと、男は首を傾げて階段を登って行った。
どういうことなのだろう。この扉から出てきたのは初めてで、しかも最初から最後まで表情の変化があまりなかった。絶望も希望もなく、ただ息をしているようにしか見えなかった。
武蔵は、心臓の鼓動を抑えることができなかった。あの男ももちろんそうだが、この扉の中について一層興味が湧いてしまった。この仕事を続けていくにあたって、一番やってはいけないことなのだろう。しかし、武蔵は抑えることができなかった。
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