週末のブルース 13

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週末のブルース 13

 今日も今日とて、尊は俺の部屋でくつろいでいる。  発熱した日に来て以来、「平日は来るな」と約束はなし崩しになってしまった。むしろ前より会っている。「いるだけにするから」の約束の方は、一応、「毎回するわけではない」というかたちで守られていた。  金曜の夜、ソファーでスマホのゲームアプリに興じる尊を眺めながら、俺はコーヒーを飲んでいる。本当は酒を飲みたいところだが、未成年の前で飲むのはなんだか気が引けた。  こんな関係、いつまで続くんだろうか。  俺はちょっと水を向けてみる。 「なあ、お前、卒業したらどうするんだ?」  進路の話をするには遅過ぎるくらいだった。こいつが真実十八歳だということはあまり考えたくなかったから、俺の方がその話題を避けてきたのだ。  尊は顔を上げ、なんでもないことのように言う。 「工場受けるよ。工業高校だし」 「就職するのか」 「うん。学校が紹介してくれるとこ。もし落ちたらバイトでもいいから働く」  俺は驚いた。てっきり卒業後は遊び惚けるとばかり思っていたが、案外真面目に考えていたらしい。 「それでさ」  と、尊が言った。 「この間先生と面接の練習したんだけど、『初めてのお給料は何に使いますか』とか訊かれたんだよね。そんで、『遊びます』って答えたらめっちゃ怒られた」  当たり前だ。 「その質問の模範解答は『苦労をかけた両親に何かプレゼントしたいと思います』だな」 「うわ。キモ」  遠慮のない奴だ。だけど、こいつの家庭環境からすると仕方がないのだろうか。  尊は肩を竦めた。 「まあ、俺も別に遊ばなくてもいいかなって思ったよね。つまんねー奴と遊んでもつまんねーし」 「ああ、そうかよ」 「だけどさあ、たまに外でメシ食ったりはしようよ」  うん?  俺は眉間に皺を寄せた。 「なんでそれを俺に言ってくるんだ?」 「や、だって、俺ここに住むし」  は? 「……誰がそんなこと許可したんだよ」 「ダメなのかよ」 「ダメだよ」 「ちゃんと家賃払うよ?」 「どんな家賃だよ」  これは言わなければよかった。  尊の野郎はにやにや笑って言うのだ。 「どっちでもいいよぉ。金でもエッチでも」 「黙れバカ」  家賃はともかくとして、こいつは本当に俺の家に住むつもりなんだろうか。これまで何年もひとり気ままに暮らしてきたのに、いまさら誰かと暮らそうなんて冗談じゃない。  だが、口ではいろいろと文句を言っているくせに、俺はこいつを拒めない。泊めてよーなんて頼まれると、ついつい承諾してしまう。そうして尊といる時間が妙に心地よいのも確かで、もうごまかしきれない。  しかし、しかしだ。もし一緒に住むことになったら、俺はこいつの両親に挨拶すべきなんじゃなかろうか。いや、とーさんとかーさんは尊が嫌がりそうだから、にーちゃんか? こいつのにーちゃんっていくつだ? 二十歳くらいか? そんなのに、弟さんと同棲しますなんて挨拶しろっていうのか?  無理だ。無理に決まっている。  ああ、くそ、俺はどうしたらいいんだ。
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