週末のブルース 13プラス半分

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週末のブルース 13プラス半分

 俺の弟は、どうやら男と付き合ってるらしい。  それ自体は別にいい。相当遊んでそうなのに女の話が全く出ないのは、そういうわけだったかと納得もした。問題はそこじゃなくて。 「それで、相手いくつだって?」 「四十三歳」 「いくつだって?」 「だから、四十三」  とーさんとかーさんはいくつだったっけな、とか、つい考えてしまった。  ヤバい。 「お前、よくそんなんと付き合う気になれるな」 「や、だって、優しいし、かわいいし、いい人だし、相性いいみたいよ?」 「それにしたって四十三だぞ? おっさんだろ」 「うん、おっさん。すぐ腰痛いとか言い出すし、目んとことかびみょーに皺あるし、腹もちょっとぷよっとしてるし。でも、俺、そういうの全然嫌じゃないんだよなー。エッチしてる時とか、やー、かわいいなー、って思うし」 「生々しいな。やめろよ」  俺は周囲を見回した。  尊とは久しぶりに会った。こいつに彼氏ができてからというもの、ちょいちょい電話では話してたんだけど、今日は相談があるとかで呼び出された。で、その相談というのが、 「卒業したら一緒に住みたいんだけどさあ、親に挨拶しないとダメだとか言い出したんだよね」  ――ってことらしい。  常識人じゃねえか彼氏。十八のガキと付き合う割には。  だけど、普通に考えて「四十三歳ですがお宅の息子さんと一緒に暮らしたいです」なんて言うおっさんを受け入れる親はいねえよな。さすがにうちの親だって反対するだろう。  とーさんとかーさんは仲が悪い。昔からそうだ。それでもガキの頃はまだマシで、俺たちの世話くらいはそこそこしてくれていた。俺が小学校に上がったくらいから、もう大丈夫だと思ったのかなんなのか知らねえけど、かーさんはちょくちょく家出するようになった。  行き先はばーちゃんちだってわかってたから、たいしたことじゃあない。かーさんもとーさんもそう思ってたんだろう。だけど、ガキが何度も母親に置いていかれてみろ。しかもなんの説明もねえからな。  そんなだから、俺も尊も親には何も期待してない。 「挨拶なんかする必要ねえだろ。やめとけよ」 「だよなあ。俺もそう言ったんだ。そしたら、じゃあにーちゃんに挨拶するって彼氏が」 「はあ? 俺?」 「うん。俺もにーちゃんになら会わせてもいいかなって思ったんだけど」 「うわあ、マジかよ。おとーとさんをくださいとか言われんの?」 「言われんの」 「うげえ」  俺だって弟の彼氏になんか会いたくねえわ。妹の彼氏でもごめんだわ。妹いねえけど。  だけど尊はめちゃ嬉しそうに彼氏の話をする。こいつが誰かのことをそんなに話すなんて初めてだ。「優しいし、かわいいし、いい人だし、相性いいみたい」ねえ。四十三のおっさんが。  こんなんでも大事な弟だ。ふざけたマネしやがったらぶっ殺すからな。
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