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週末のブルース 14
そんなわけで、尊のにーちゃんと会うことになった。挨拶すべきだと言ったのは俺だが、まさかあっさり段取りつけてくるとは思いもしなかったんだ。
俺はいま、尊によく似た若い男と向き合っている。俺の隣には尊がいて、なぜだか知らんがめちゃくちゃ嬉しそうにニヤニヤ笑っているのだ。
ちなみに場所はファミレスだ。勘弁してくれ。せめて個室のあるところにして欲しかった。
「初めまして。佐木智紀です」
俺が名乗ると、尊のにーちゃんも頭を下げた。
「あ、どうも。陣野隼です。こいつの兄貴です」
で、にーちゃんは尊の方を向いた。
「なんだ、割とまともそうじゃん。もっと変なオヤジかと思ってたわ」
おい、お前それを本人の前で言うか。さすがクソガキの兄貴だ。
だが、にーちゃんが「もっと変なオヤジかと思ってた」のも当然といえば当然だ。「紹介したい人がいる」と弟に言われれば大体は女の子を想像するだろうし、男だとしてもまさか二十五も年上とは思うまい。「割とまとも」は、この場合最大級の褒め言葉だろう。
いろいろひどい。我ながら。
「それで……ですね。尊君とは、その、親しくさせていただいてまして。彼の卒業を待って、一緒に暮らそうかと……」
この言い方だとまるで俺が望んでいるみたいだった。
言い出したのはお前だぞと、俺はひそかに尊を睨む。俺だって、まあ、嫌じゃあないが。
にーちゃんは言った。
「いいんじゃないすかね、別に」
いいのかよ。あまりにもざっくり言うから俺の方がびっくりしたよ。理解があるというか話が早いというか、こっちは罵倒されるくらい覚悟してきたのに。
「あの、反対しないんですか?」
「こいつがそうしたいって言ってるし、特にしないすね」
「はあ……」
「つーかおっさんよりこいつの方がケンカ強そうだし、なんかあっても負けなさそうだから別にいいかって感じ」
それはどういう基準なんだ。ツッコミが追いつかん。
「ケンカなんかするわけないじゃん。俺とトモちん仲よしだし。ねっ」
尊が横から口を挟んだ。お前もどういう基準でものを考えているんだ。
「それより俺昼メシ食いそこなったんだけど、なんか食っていいすかね」
にーちゃんが言った。お前よくこんな状況で普通にメシ食う気になれるな。なんなんだこの兄弟は。いや、奢りますよ。ええ。奢りますとも。おっさんですから。
尊のにーちゃんは二十一歳だそうだ。弟と同じ工業高校を卒業して、就職と同時に家を出たという。会社の寮に一年住んだ後、アパートを借りていまはひとり暮らしらしい。
「ひとり楽なんすよね」
と、にーちゃんは言った。
「じゃあまたな。なんかあったら連絡寄越せよ」
尊にそう言って、にーちゃんは帰っていった。
ひとまず顔合わせは成功だったと言っていいのだろうか。あのにーちゃんドライ過ぎてよくわからなかったんだが。
俺は尊を見上げる。
「就職試験頑張れよ」
「おう」
「お前をちゃんと就職させないと、俺がにーちゃんに顔向けできないだろ」
「だーいじょうぶだってぇ」
本当にちゃんと就職してくれよ。堂々と一緒に暮らすためにも。
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