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週末のブルース 2
『おっさん、泊めてよ』
例のバカからそんなメッセージが来たのは、金曜のことだった。
おっさんと呼ばれていることについては、まあいい。どこからどう見てもおっさんと呼ぶしかない年齢(四十三歳)であることは、自分でもよくわかっている。まして相手は十八だ。十八歳から見たら、三十だって四十だって等しくおっさんだろう。
無敵の若さが羨ましい。
いや、違う、いまはそんなことはどうでもいいんだった。問題はこのバカだ。二か月間なんの音沙汰もなかったくせに、いきなり連絡してきたと思ったら「泊めてよ」とは、こいつの頭は一体どうなっているのか。俺が別の男と会っているかもしれないとか、そもそも自分を覚えていないかもしれないとか、そういう可能性は考えもしないのだろうか。
俺はイライラしながら返信する。
『いまどこだ』
『歌舞伎町』
せめて渋谷とかにいられないものか、こいつは。
『何してる』
『遊んでる』
『じゃあ一緒に遊んでる誰かに泊めてもらえ』
『だってみんな帰るって言うんだもん。俺帰りたくない』
だってとはなんだ、だってとは。かわいこぶりやがって、腹の立つ奴だ。
『どこ行ったらいい?』
バカは俺に断られるとは思っていないらしい。
『新宿駅西口の改札前で待ってろ』
新宿駅といえば世界一乗降客が多いといわれる駅だが、視界を埋め尽くす雑踏の中だというのに奴はすぐ見つかった。背が高く、逞しく、チャラい茶髪、人を舐めくさったような目つき、憎らしいような整った顔立ちと、でかい態度。妙に目立つというか、目に余るというか。
俺が近づくと、バカの方も気づいた。
「よう、おっさん」
「お前な……」
俺は呆れる。来てくれてありがとうとか久しぶりだねとか、そんな殊勝な台詞をこいつに期待する方が間違っているようだ。
「早くおっさんのうち行こうよ。俺、寒くなっちゃった」
「そんな薄着でいるからだ」
「だって荷物多いからさあ。ロッカーに入りきらなかったら面倒じゃん。制服着てたら遊べないしさ」
そういえばこいつはいやに大きなバッグを抱えている。着替えた制服をそれに入れ、どこかの駅のロッカーに預けて遊び歩いていたということか。
というか、制服ということは、こいつ本当に高校生だったのか。正直信じたくなかった。こいつが本物の高校生だとすると、俺のやっていることがいかに危険かという……ああ、怖い。考えたくない。
息子であってもおかしくないくらいのガキだ。
そのガキは、俺を見下ろして言う。
「ゴム買っていった方がいいんじゃないの? 抱いて欲しいでしょ?」
死ね、クソガキ。
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