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週末のブルース 4
クソガキから連絡が来た。前に会った時から、二週間めの金曜日のことだった。
何しろその前が二か月空いていたから、久しぶりという感覚はなかった。ついこの間会ったのになと思ったくらいだ。なんにせよ誰かから求められるというのは嬉しいものだ。たとえそれが、
「おっさん、メシ奢ってよ」
なんていう、人を財布扱いしているかのような無礼なものであっても。
新宿駅で会った。前と同じだ。ただし今日は、高校生がまさしく高校生らしい格好だったから、だいぶ怯んでしまったが。
制服だ。学ラン。誰にでも割と似合うデザインだと思っていたが、こいつが着ていると似合わないを通り越してまるで犯罪だった。
いや、そうじゃない、犯罪なのは俺の方だ。制服の高校生と連れ立って歩くスーツのおっさん。まずい。非常にまずい。
まあ、あの、そうだな、意識しなければいいんだ。どうせ親子みたいな歳の差なんだし、いまから俺はこいつの親戚のおっさんということにしよう。
俺は軽く咳払いして平静を装った。
「それで、何食いたいんだ?」
「牛丼か、ハンバーガーかな」
それはおっさんにたかるメシとしてはあまりに安過ぎる。奢りがいがないというか、せめてもう少しデートじみたものをリクエストして欲しいというか。
「どうせ美味いもん食ったってわかんないんだから、安くてボリュームあるやつでいいんだよ。レストランとか面倒くさいし」
「そんな気取ってないところもたくさんあるぞ。牛丼なんて五百円もしないんじゃないか? もっといいもの食わせてやれるから、なんでも言えよ」
こっちはちゃんと働いている独身のおっさんだ。そこそこのメシを奢ってやったくらいで困ったりしない。
が、不良高校生はきょとんと目を丸くした。
「なんでメシに金かけんの? 食えりゃなんでもいいじゃん」
食えりゃなんでもよくはない。繰り返すが、食えりゃなんでもよくはないんだ。というかこいつ、いままでどんなもの食って生きてきたんだ。ある意味怖いぞ。
「お前には教育が必要だな」
「牛丼だめ? 俺は結構好きなんだけど」
「いや、そうじゃなくてだな……」
そのうちいい店に連れていってやろう。こいつの親も親戚も連れていってくれないような店に。
が、ひとまずいまは、俺は折れた。
「じゃあ、牛丼な」
「豚汁つけていい?」
「好きにしろよ」
「やった。おっさん、ありがと」
なんだこいつ。クソ生意気なガキだと思ったら、豚汁ごときに目をキラキラさせやがって。
くそ。かわいいな。牛丼もいいかもな。
「それでさあ、今日泊めてくれない? 着替え忘れちゃって遊べないから」
この野郎。俺は遊べない時の保険かよ。
「宿代払えよ」
「えー、いくら?」
「いや、そうじゃなくてだな……」
これはさっきと同じ台詞だった。
クソガキがにやりと笑う。
「あ、そっか、わかった。エッチか」
ああ、オヤジくさいことを言ってしまった。
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