週末のブルース 9

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週末のブルース 9

 残業中に、部下と何気ない会話をしていた時のことだ。たぶん俺は気が弱っていたんだろう。こんなことを言ってしまった。 「いま、実は……ものすごく若い子と、付き合ってる……みたいな状態になってるんだ」  すると部下は言った。 「勘違いじゃないすか」  そんなことがあった週末も、尊がうちに来た。  俺はベッドでうとうとしながら、部下の言ったことを考えていた。勘違い。そりゃあそうだ。俺だって、もし同い年の奴に十八歳の子と付き合っているとか打ち明けられたら、考えることは次のどれかだろう。  ①犯罪。  ②騙されている。  ③そもそも付き合っていない。  俺と尊はその、肉体関係は間違いなくあるわけなんだが、付き合っているかどうかと訊かれると困る。だから「付き合っているみたいな状態」と言ったんだ。本気で付き合っているとは、さすがの俺も思ってはいない。  来週は温泉に行こう――なんていう話が進んでいることも驚きだ。おっさんとふたりで温泉になんて行きたいもんかね? 十八の小僧がか? クラブとかライブハウスとかに行った方がまだ楽しいんじゃないのか?  尊は疑問に思ったりしないんだろうか。毎週のようにこんなおっさんと会っていることに。  考えているうち、本当に眠りに落ちそうになって……そうしたら、尊が後ろからのしかかってきた。  俺はもがいた。 「くそ、お前重いんだよ。無駄にでかい図体しやがって」 「トモちーん、眠いよー」 「寝ろよ」 「やだ」  なんでガキは眠くなるとぐずり出すのか。  尊は俺の首筋に顔を埋めて、すりすりと頬をこすりつけてきた。ちょっとくすぐったい。 「トモちんってさー、この辺石鹸の匂いするよね。清潔にしてますうーって感じの」 「……それは厭味かな? 加齢臭気にしてるだろって言いたいのか?」 「あー、加齢臭気にしてるんだ。へえー」  なんだ腹立つな! 気にしてるよそりゃあ! お前と付き合ってからもっと気にするようになったわ! おっさんくさくならないように必死だよ悪かったなこの野郎! 無敵の十八歳だっていつかは四十三歳になるんだぞちくしょう!  違う、こいつとは付き合ってない。付き合って、ない。 「トモちーん」  眠いくせに、尊は俺のうなじに舌を這わせてきた。 「やめろよ。二回めとか無理だからな」 「俺もむりー」  がくんと尊の頭が落ちてきた。振り向いたら、クソガキは俺にもたれかかったまま沈没していた。  なんでこいつはこんな、電池が切れたように眠れるんだろう? おっさんはひとり取り残されたんだが。 「しょうもないガキだな……」  と、呟いたが、もちろん自分でもわかっている。しょうもないのは俺の方だ。寝るともっと幼くなる尊の唇に、そっとキスなんてしているのだから。
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