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通夜の会場は、ひっそりとしていた。
まだ時間も早い、
親族の方にご挨拶してから、正人に会わせてもらおうと思った。
確か父親は早くに亡くなったと聞いていたが、母親は健在だったはす。
「あの、常務? 今のうちに吉崎さんのお母様にご挨拶したいのですが。」
常務は、私をチラッと見た後、
「吉崎に家族はいない。」
と言った。
えっ、そんな!
正人はいつも、お母さんの話しをしていた。
「常務、お言葉ですが、私は以前に吉崎さんから、お母様のお話しを伺っています。
何故、この場にいらっしゃらないのですか?」
「いや、彼は吉崎家の養子だったから。
養父はとっくになくなっていて、戸籍上は彼の親はいないはずだよ。」
「そんなはずはっ!
それじゃ、この通夜と葬儀は誰が?」
「喪主…、俺だ。」
「常務、あなたは正人と、どういう関係なんですか?」
「プライベートなことだ。それを君に話す必要はない。」
「それじゃどうして?
何故?私をここに連れて来たんですか?」
常務は、それ以上話す気は無いらしく、それっきり口を閉ざしたままだ。
正人、いったいどうして?
あなたに何があったの?
疑問は深まるばかりたが、常務以外にそれを教えてくれる人はいないようだ。
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