はじまり

10/10
5573人が本棚に入れています
本棚に追加
/192ページ
「三崎、ここでは俺を常務と呼ぶな。 俺は中澤コーポレーション常務として、ここにいるんじゃ無い。 あくまで中澤和興、個人として来ている。 正人とは、そういう間柄だ。」 「分かりました。 では、中澤さんと呼ばせていただきます。」 「いや、和興でいい。」 えっ、常務を名前で呼ぶなんてこと、無理だ。 「常務!それは…。」 「常務と呼ぶなと、言っている。」 「あっ、す、すみません!か、かずおき、さん?」 常務、いや、和興さんは頷いた。 そして今、私は、 私が愛した男と、無言の対面を果たしている。 生前の逞しくがっしりとした体格は見る影もなく、痩せこけた頬は土気色をしていた。 しかし、静かに眠るような表情は穏やかだった。 「正人…、本当に…、 なんでこんなことに、なってしまったのよ…」 まだ、27歳だ。 これから、やりたいことが沢山あったはずだ。 私と別れたのは? もしかして?病気だったからなの? なんで、言わなかったのよ! 何で? 何でなの!
/192ページ

最初のコメントを投稿しよう!