はじまり

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常務室の前で、秘書の野村さんに 「何の用でしょうかね?」 と聞いてみたが、野村さんは首を振る。 とりあえず、中へ入るよう促された。 「失礼します、三崎です。」 「悪いね、急に呼び立てて、」 そう言った常務だが、悪びれる様子も無かった。 中澤常務は、男性なのに美しい人だと思う。 身長は180以上あるのは間違いない。 細身かなとも思ったが、こうして間近で見ると胸板は厚く筋肉質だと分かる。 美しい顔立ちは、女性とは違う精悍な顔立ち、美しい全てのパーツが、バランスよく配置されている。 漆黒の髪は、やや長めで毛先に行くにつれて緩やかなウエーブがあり、自然に流した品の良いヘアスタイルを作り上げている。 女性の私から見ても、見惚れてしまいそうなぐらいに整った顔立ちの男性だ。 しかし、何故? 私が呼び出されたのだろう? 「君に来てもらったのは…、 野村、すまないが席を外してくれ。」 「はい、承知しました。」 野村さんは退出して行った。 「三崎里穂さん、 吉崎 正人(よしざき まさと)を知っているね?」 私は、中澤常務を見つめた。 「知っていたら、何か?」 「彼を知っているだろ?」 「プライベートなことですので、答えたくありません。」 「そう…、 独り言だ。 吉崎 正人が亡くなった、今朝早くに、 癌だったそうだ。 気がついた時には、手の施しようもなく、痛みを緩和するだけだった。 病室で、ひとり静かに亡くなったそうだ。」
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