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少し歩いたが、まだ諦め悪く、
中澤邸を立ち去ろうか迷っていたその時、一台の黒い高級車が中澤邸の前で止まった。
運転席に常務の姿が見えた。
「中澤常務!すみません!」
小走りに中澤邸前に戻って行くと、私に気づいたのか、クルマの窓が静かに開いた。
「中澤常務!三崎です。
まさ…、吉崎さんのこと、教えて下さい!お願いします。」
中澤常務は私を見て、
「乗って。」と、助手席を指した。
私が常務の指示に従って助手席に乗ると、
クルマは滑らかに走り出した。
「常務、突然すみません。吉崎正人さんは、本当に亡くなったのでしょうか?」
「あぁ、今、会ってきたところだ。
…穏やかな表情をしていた。」
「私、吉崎さんに会いたいんです、お願いします。
最後に、一目だけでも彼に会いたい…。」
涙が溢れて、目の前が滲んで見えた。
「もう二度と会えなくなるなら、最後に会わせてください。お願いし…ます。」
中澤常務は、少し眉を顰めて考え込んでいたが、
「分かった。
連れて行ってやるから、明日は普通に出勤すればいい。
着替えを忘れるな、明日が通夜だ。」
「はい、ありがとうございます。」
その後、常務は私をアパートまで送り、無言で去って行った。
常務と接する機会なんて今まで無かったけど、何故だか、とても嫌われてる気がする。
別にいいけど、住む世界が違う人だし。
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