はじまり

7/10
前へ
/192ページ
次へ
翌朝の目覚めは最悪だった。 昨夜眠れず夜中に何度も目が覚めた、その度に正人を、彼の言葉を、思い出した。 出勤準備をしながら、また考えている。 本当に死んだの?人違いじゃないの? もう私とは関わりのない人のはずなのに、嘘であって欲しいと願わずにいられない。 仕事の後で通夜に向かう為の準備をした、荷物が多いのは仕方ない。 まさか、こんな日が来るとは夢にも思わなかった。 この1年ちょっとの間、あなたはどうしていたの? 私と別れてから何があったの? 亡くなる時、女の人は一緒じゃなかったの? なんで、最後の時に側にいなかったのよ! ひとりで逝くなんて…、 あんなに明るくて、みんなの中心にいた正人がたったひとりで静かに息を引きとったなんて、 全く、想像もつかない。 会社に着いてからも、どこか落ち着かない。 昼休みに、常務秘書の野村さんがやって来て、終業後に医務室で待つように言われた。 野村さんが営業部に来るのは珍しく、同期の唯香が騒いでいる。 「何?何事? 野村さんが来るってことは? ねぇ、何か常務の指示なの?」 「うん、ちょっとね。」 「里穂、私に隠し事〜?」 「大したことじゃないよ、たまたま共通の知り合いが亡くなって、今夜がお通夜なの。 唯香、残念ながら甘い話しじゃありません。」 「えー、そうなの? 共通の知り合いって、誰?」 「元彼」 「・・・そうなの…、 まだ若いのに、お気の毒だわね。」 私は黙って頷いた。 さすがの唯香も、それ以上は聞いてこなかった。
/192ページ

最初のコメントを投稿しよう!

5587人が本棚に入れています
本棚に追加