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「嘘くさい予言だけどバカにできないのです。まじない師、上京久遠の予言らしいから」
上京久遠……。確かその人について書かれた本が学校の図書室にあったと思う。タイトルは『平安時代のまじない師 上京久遠』だった気がする。まじない師なんて詐欺師くらい胡散臭い感じがして読む気になれなかったけどね。
「その人、凄い人なの?」
「凄いなんてもんじゃない! 疫病に苦しむ千代京の人々をまじないで救った偉大なお方なのです」
鼻息を荒くして語っている。そんな偉い人だったんだ。でも知っているのなんて歴史好きな人くらいだろうし、その予言を信じでいる人たちは熱狂的な歴史マニアなんじゃないかな。
「あー、あの人! アタシ歴史なんて興味ないけど、テレビで特集されてるのチラッと見たことあるわ」
嘘、あっちゃんも知ってるの⁉ ここまで知名度があると、その予言も信憑性がある気がしてくる。
「それに、千年に一人の少女はこの世をまじないで救うと、神様にどんな願いも一つだけ叶えてもらえるらしいのです。でも、本人はまじない師に任命されるまで自分が千年に一人の少女だってことに気付かないらしいよ」
和歌ちゃんの説明で、剣崎惺さんが言ってたことを思い出す。
――千年に一人の少女を利用して自分勝手な願いを叶えてもらおうとする、私利私欲にまみれた奴が腐るほどいるからな――
この意味がやっとわかった。自分の願いを叶えるために千年に一人の少女を利用したいけど、どこにいるのかわからないから、手当たり次第に道行く少女を狙う人がいるんだ。そりゃ治安も悪くなるわけだよ。
「この国立博物館には、その予言に関係する物が貯蔵されているって噂なのです」
「どうせ迷信だろうけど、願い事の一つくらい考えとこうかな」
あっちゃんは打って変わって、予言に興味がわいている様子だ。
「五大ドームでライブやってほしいし、毎回ライブチケットは最前列で当選したいし、サクに会いたいし……一つだけなんて絞れなーい」
アイドル関係の願い事ばかりとは、あまりにもあっちゃんらしい。ちなみに、サクというのはあっちゃんが一番推しているアイドルだ。
「九坂下中学の生徒は本館ロビーへ集合!」
担任の山田先生の、低くて太い声が聞こえてくる。
「山田先生が呼んでるね。早く行こ」
私はベンチから立ち上がり本館へ向かって駆け出した。
噴水の水が勢いよく舞い上がる。空は清々しいほどの快晴だ。
私は、何か一つだけ願うとするならばもう決まってるんだ。『サラサラストレートヘアになりたい』。とっくの昔から一番の願いはこれなの。サラサラストレートヘアになれれば、何もかも上手くいく気がしてるんだよね。
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