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あっちゃんと和歌ちゃんは不思議そうな表情のまま、特別展示室へと入って行った。
「――そして予言によりますと、今年がまさしくその年であると――」
学芸員さんの国宝についての解説が始まったようだ。あちゃ~出遅れちゃったよ。出入口でもたもたしているうちに同級生は全員入室したらしい。
痺れなんて気にする程のことじゃないよね。特別展示室の中へ進もっと。
――――ガチャッ――――
入室した瞬間かすかに鍵が開くような音がした。
そして突如、バリーンという鼓膜が破れそうなほどの音が響く。
国宝の宝箱を収納するガラスケースが派手に割れた。
特別展示室全体にガラスの破片が散らばる。
「キャアアアアアア」
大勢の同級生の女子たちが、恐怖で怯えるように悲鳴を上げる。
私はガラスケースに視線を向けた。
開いてる、宝箱が!
びっくりしすぎて腰が抜けた。
あの宝箱には誰も触れられなかったはず。なぜなら、ガラスケースに入っていたのだから。それなのに開くなんて……。
「に、逃げろおお」
誰かの叫びにつられて、同級生たちは一斉に特別展示室から出ようとする。
特別展示室の出入口付近には、さっきの物音を聞いて野次馬が集まってきていた。そこへ同級生たちが逃げようと突進する。もうしっちゃかめっちゃかな騒ぎだ。
「怪我するからじっとしてろッ」
普段は良く通る山田先生の声すら、叫び声や足音でかき消された。
「怖いよおおっ」
「何事だッ⁉」
「死にたくねぇぇぇ!」
「私たち何もしてないのにッ」
「さっきすげえ音したぞ⁉」
「ガラスがっ、ガラスがあっ!」
皆パニックになっている中自分だけは落ち着いていたいけれど、すっかり私の心も恐怖に蝕まれていた。
逃げたい。怖い。
家に帰りたい……! 怖い!
パパママ助けて! 怖いよー!!
せめて騒音から逃れようと耳を塞いだ。胸の鼓動がうるさくて仕方がない。
「そんなまさか……っ」
学芸員のお姉さんは声を震わせながらそう言うと、ずれていたメガネをかけ直して人混みへ駆け出した。
「すみません通して下さい! 館長大変ですーっ、館長―っ」
学芸員さんが走り抜けるヒールの音と混ざって、私の鼓動が激しくなっていくようだった。
国宝と称されるあの宝箱がひとりでに開いた。開く時に蓋がガラスケースに当たり、ケースが粉砕したのだろう。
とんでもない出来事だ。
私が近付いた途端に、こんなことになるなんて。
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