序章

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「ここは一体どこなのー⁉」  せっかくの自由行動時間なのに、仲良しグループとはぐれて迷子になっている。  お出かけするのは大好きでも、幼い頃から道に迷ってしまう癖がある私。何故だろう、地図は読めているはずなんだけどなぁ……。  五月の晴れ渡る空の下、時代劇で使えそうな風情ある小路で独り佇む。  すると、雅な着物姿の舞妓さんが正面から歩いてきた。生憎ちょっと人見知りだから、道を尋ねる勇気はない。  スニーカーでも歩きにくいと感じる石畳を、分厚い下駄を履いて颯爽と通っている。すれ違う瞬間、ふわりとほのかに良い香りがした。思わず振り返る。金色の蝶の模様が施された長い帯が陽の光を浴びて、上品に輝いていた。  わぁ、素敵! 憧れる~……って、今は見惚れている場合じゃなくて。  スマホで時間を確かめると、午後一時三十分。そろそろあっちゃんと和歌ちゃんを探すのを諦めて、次の集合場所である国立博物館に行った方がいい時間かもしれない。  顔を上げると遠くの方に、全面ガラス張りの建物が見えた。周りの和風の建物とは明らかに違う、近代的なデザイン。修学旅行のしおりに載っていた外観の写真と同じだ、おそらくあれが国立博物館だろう。 「ラッキー、やっとみんなと合流できる!」  
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