76人が本棚に入れています
本棚に追加
/89ページ
ナイフだ。
一瞬驚いたけど、どうせ偽物だろうと冷静を装った。こんな子供だまし一体どういうつもりなのかな。
悠長に構えていると、前髪が長い男に腕や肩を掴まれる。あっという間に地面に体を倒され手で口を覆われ、さらに体に跨られ体重をかけられた。
えっ、えっ、ええええー⁉⁉
「大人しく付いてきてもらおうか。試したいことがあるんだよ」
ヤバイ、思っていた以上にヤバイ奴だった!
大声を出そうとしてもくぐもった声しか出せないし力いっぱい藻掻いてもびくともしない。
ナイフの先端が首に迫っている。
その鋭利な切っ先から、偽物じゃないとようやく悟った。
私は恐怖で目を瞑る。
大ピンチ――
「ぎゃあああああああああ」
急に悲鳴が上がるとともに、押さえつけられていた体が自由を取り戻した。
目を開けると、前髪が長い男が首のあたりを抑えながら倒れている。ナイフは遠くへ転がっていた。
何が起きたの⁉
上体を起こすと、見知らぬお兄さんが立っている。
「女に暴力を振るうなんざ、男の風上にも置けねぇ奴だぜ」
サラサラな黒髪が風に揺れていた。キリっとした眉毛とパッチリとした目が印象的な、誰が見ても格好いいと思いそうなお兄さんだ。
しかし服装はジャージ姿にサンダルとこの上なくダサい。そして手には……竹刀?
最初のコメントを投稿しよう!