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竹刀を構え直すと、男たちは若干後ずさった。蛍光ピンクのツナギを着た男が何かに気づいた顔をする。
「お前どっかで見たことある顔だと思ったら! 剣崎惺じゃねーか!」
剣崎惺さんっていうんだ、もしかして有名人なの?
蛍光グリーンのツナギを着た男が、蛍光ピンクのツナギを着た男の言葉に体をビクつかせた。
「剣崎惺って、あの剣崎惺か? 剣道のインターハイで個人優勝したっていう」
剣道、優勝? インターハイが何のことだかよくわかんないけど……凄そう!
「俺のことよく知ってるじゃねぇか。だったら二人同時に相手してやるぜ。かかってこいよ」
ニヤリと不敵に笑い、剣崎惺さんは竹刀を振り上げた。
「「勘弁してくれー‼」」
二人はそう叫ぶと逃げ出す。慌てすぎたのか、つまずいて派手に転んだり電信柱にぶつかったりしている。その様子は何だか滑稽だった。
「あのっ、助けていだだいてありがとうございましたっ」
そう言いながら振り返ると、もう剣崎惺さんの姿はなかった。
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