シリウスの伴星

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大貴は、信用できそうな知人に、 自分のセクシャリティをカミング アウトしたが 「自分は異性に苦手意識が あって、貴方のようには 女性とつきあえない」 と表現していた。 だが陽の(ほう)は、臆面もなく 「男をヤルのが好き」 だと、ラディカル(過激・根源的)な発言をしている。 あげく、ノンケの尻を追いまわし て、今まで自分が所属していた場 所を()われている。 自分にとってあるべき世界を構築 するために、現在(いま)の世界を打ち捨 てる気構えは、見あげたものでは ないだろうか? しかも「オスのウニの(ほう)が、メス よりうまい」と言い切るには、そ れなりの体験と、エンカウンター (出逢い・本音の交流)の実績が伴 わねばならない。 ランダムの極みはボイル・シャル ルの法則でいっそ簡単になる。 重そうで重くない箱に入っている のは何だろう? スティグマもトラウマも、少年に かかっては、飛び箱を飛びこすた めのハネ板程度のものでしかない らしい。 それに、僕が夜に夢みていたこと を、この少年は昼に差しだしてく れるつもりだ。 どうやら僕は彼の感性にヒット して (有り体に言えば気にいられて) 太陽をつなぐ柱(インティワタナ)のように崇められ、彼は嬉々として立ちあげるために僕の柱に口をつけ、そうやって立ちあげた柱を身に打ちこまれるのを(いと) わないだろう。 池袋にあるファッションビルの地 下に少年は単車を納め、腕時計を 見た。 大貴からメットを受けとり、自ら ゴルディアスの結び目を解くフリ ュギア王のように、バンダナの結 び目を解いてやりながら たずねた。 「休憩、かまいませんか?」 イミテーションレザーを脱いで、 少年に返し、手ぐしで髪を整えな がら大貴は うなずいた。 パーキング裏手の街路を行くと、 すぐにイスパニア風の外観を持つ ホテルに着いた。 「ここ、オート選室できます。 帰りは時間差で でましょう」 陽が慣れた口調で説明し、ホテル ロビーのパネルを指し示した。 平日の午後で、分割されたパネル の何まいもに明るく照明が灯され、情事に呈される部屋の写真が(おもむき)を競っている。 「ヒロさん、好みのインテリアの 部屋、選んでください」 陽に言われて、一度はホテル外観 に見あったコロニアル風の(しつら)えの 部屋に目をとめたが、大貴は天井 がプラネタリウムを思わせる星座 の間を選んだ。 「ナイスセレクト」 そうだ。 陽が大貴にむけて親指をたてた。 俺たちが求めるのは植民地(コロニー)じゃない。 月の名を持つ太陽と、今はBを認 ずるシリウスが回転するのは宇宙(コスモス) に他ならない。 大貴は、自分たちが本来欲してい るのは夜の天空というよりは宇宙(そら)静寂(しじま)だ。と思った。 すると、天羽(あまはね)のことが想いだされた。
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