シリウスの伴星

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「おー!」 陽は、感嘆の声をあげ部屋を見ま わした。 ホールのレアチーズケーキを思わ せる乳色のベッドは、低めの円型(ラウンド) で濃紺の天井には星が瞬いている。 ふたりが持ちこんだ音と、かすか な空調の音以外は無く静かだった。 ホテルに部屋をとった者が最初に するべきは、緊急時に備え脱出口 を確認することなのだが、陽が最 初にしたことは天羽と一緒だった。 (天羽だったら「ここではきもの を脱ぐ」と答えるだろうけど) 大貴は思い、ライディングシュー ズを脱いだ少年がリストウォッチ を外して、それを設えのテーブル の上に置くのを見た。 (ああして天羽も大事そうに腕時 計を置いた。父親からもらった と言っていた) 「ヒロさん、時短で、一緒に 風呂使わせてもらっていい?」 大貴の返事を待たず、陽はボトム ズをすっかりはずした。 (下から脱ぐ派なのか…) 二人掛けのソファに置かれた黒の ブリーフと、手いれをされたアン ダーヘアが剪定された草木を連想 させて玄人っぽい感じを抱かせた。 オレンジ色のトレーナーの下は黒 のタンクトップで、筋肉質の均整 のとれた肢体に大貴が目を引かれ ていると、陽は 「俺、着痩せするんです」 言って、最後に黒い靴下をとった。 全裸で洗面所に向かう陽に目をく れて、思ったよりボリュームのあ る腰と、少女のように細い足首を 眺めていると、少年は振りかえり 「あ、ヒロさん、俺 スカトロはNG」 言いおいて個室に入り、すぐにド アを開け 「SMもカンベン。 3Pは委細面談」 言い加えてドアを閉めた。 それから豪快なバースト音が聞こ えたので大貴は口をつぐんだまま、 口角の片側を上げて笑い、心持ち リラックスして右手首のスウォッ チをはずし、陽の腕時計の隣に平 行に並べて、その側に新書を置き、 上に眼鏡ケースを乗せた。 大貴は最初に紺の靴下をとり、ネ クタイをはずし、ラウンジスーツ を脱ぎ、最後に青と水色のチェッ ク柄のトランクスを脱いだ。 すると 「ヒロさぁん、早くー」 バスルームから声があがり、大貴 が足を踏み入れた途端、頭から温 いシャワーを浴びせられ上から下 まで素手で洗いあげられた。その 手際に大貴が 「陽くん、プロなの?」 とたずねると 「エキスパートと言って欲しいな」 答えた少年のものは、すでに(こしら)え を始めていて見咎めた大貴が圧倒 されて半歩身をひくと、陽が 一歩 踏みこんだので少年と青年は濡れ た胸板を合わせた。
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