シリウスの伴星

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「だったら半井、あんたが向き 直ればいい。俺は、出来れば あんたと、いい関係を築けたら と思ってここに来たんだ。 争うつもりはないんだ」 天羽は右手で大貴の左手を握り、 腕を引いて大貴のポジションを反 転させ、ふたりは向きあった。 「ったく ないわ」 天羽は大貴の手を振りほどいた。 「けど、まあ、はっきりは してもらったほうがいい。 だから俺もはっきりするよ。 俺のすることが嫌だったら、 そう言ってくれよ。 耳は聞こえるんだ」 次に天羽は、まじないのような し ぐさをしたが、大貴は、これは手 話だと感じた。 それから天羽は床に膝をつき、大 貴に顔を埋めた。両腕で大貴の腰 を抱こうとしたが、相手がまた気 分を害するのを恐れてやめ、両手 をベッドにあずけた。 本来ならベッドの上で自分の腕の 中に半井がいて欲しかった。自分 のすることを少しは理解し、ある 程度は受け入れてもらいたかった。が、それでもこうして両腕の間に 彼がいてくれるのは素敵な気分だ。 彼は気位が高そうだから、ウケに まわるとは思えない。 といってタチ役をそっくり譲って やっても譲られたことに反発する だろう。 ここは選ばせる。 天羽が顔を引き戻し、手の平で口 を拭い立ちあがると、物足りなさ を露わにして大貴が視線を投げた。 「俺はターミネーター じゃない。後は自分で フィニッシュさせろよ」 「フィニッシュ…?」 「ほんと、メンドクサイ奴だ。 おっと、カンベン。 今のはグチっただけだ」 場における個の主導権と主体性の 違いは、力と態度の違いだ。 半井は主導権を固持したいらしい。 ならば自分が態度を変える。 天羽は主体的に受動的な態度に出 た。自らボランティアに参加した 者が、現場のリーダーに柔順に従 うような態度だ。しかし、表現が おぼつかなかった。 だがこの時に、名にし負う大天使 ラファエルの翼が、この青年に与 えられた。 ラファエルの原義は〈救援者(レスキュア)〉で、天羽の個人名 (たすく)は〈危難、病苦などから救う〉が原義だった。 しかも救援車を連想させる車偏で ある。 名は、消防官の父親の趣味だろう と思っていた。 自衛官の親を持つ知人に、 陸旺(りくおう)海渡(かいと)という兄弟がいるが、その括 りだ。 だが趣ではなく、子の名は多く親 の願いであり、祈りであり、誇り ある冠だった。 「とにかく、こっちはソレを ここまでインキュベート (抱卵・孵化)してやったんだ」 「して…やった?」 大貴が額に眉を寄せた。 理知と理致とがせめぎ合っている。 (だから、その美貌で その表情(かお)は反則だってば) 天羽の方は理性が吹き飛びそうだ った。 「半井、そのために俺を 呼んだんだろ?  あんたが今願っていることを 今しないで、いつするんだ?」
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