シリウスの伴星

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天羽と目白駅周辺でランチをとっ た時〈ナポリ〉のネーミングに惹 かれてパスタ目あてに入った店が、 ボリュームのあるハンバーグステ ーキの定食屋で、店名を改めるべ きという大貴に 「オーナーが居抜きで買ったん じゃね? 意外性があって いいじゃん。腹減ってたから 俺はありがたい。それ、そんな に残すのか?」 天羽が問い、大貴が 「食欲が…わかない」 と答えると 「生きてりゃそのうち腹は減る。 食わないなら食っちまうぞ」 皿を入れ替えて平らげ 「半井ってさ、事におどくる── 驚くこととか、事を面白がるっ てことある?」 と訊いてきた。 「たとえば大きな災害とか… その 人にとって苦しいできごとが続 いていると…なかなかってこと はある…」 「そんなでもさ、時に、弱みが 強みになるって、あるよね?」 話しながら、つけ合わせのキャベ ツもパセリもすっかり片付けた。 「トレーニングかなにかで?」 「それもありだけど」 「傷のあったところは、治っても、 そこは弱いと思うけどな」 「たとえばさ、この店。 ふさわしくはない名で、味って より量で売ってて、店としては 弱いけど、一発で客に覚えて もらえる強み」 「弱さを…活かすってこと?」 「半井、おまえ 絡みにくい」 弱みだろうが強みだろうが、こう も歴然とした膳を据えられて、食 わぬわけにはいかぬ。今回に限っ ては食欲があり、なにより強みが ある。 初めてではない。 大貴は、膝をベッドの上に置き、 陽の若い双つの丘を掌でつかみ持 った。 少年が指の腹を噛んでいるのが見 えた。 「陽」 大貴が呼びかけると少年は指噛み を止めて振り返った。 「ヒロさん も一回、言って」 「陽」 甘いミルク菓子を口に入れた幼い 子供のような表情(かお)になったのを見 届けて大貴は陽のスポットに深く 入りこんだ。 少年が小さく闇に啼いて、大貴の からだが温泉にダイブした。 しかし、大貴が少年の中で考えた のは青い星のことだった。 (青吾。青星…あのシリウスは スポットでなくスリットに… こうやって…) 口惜しさが頭を締めつけて来て、 しかも一度とらえた感情を なかな か離してくれなかった。 (考えを変えるのはたやすい。難し いのは感じ方を変えることだ…)
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