81人が本棚に入れています
本棚に追加
頭に血が昇って、いや下がって?
天羽は半井のインキューズ(刻印)
を不面目なものにしない方法をと
った。
彼は自分のツールを手にした。
レスキューには〈救済〉と そして
〈奪回〉の意味がある。
「一緒に達 く。半井、
それまでこらえろ」
「バカ、ガマンしろと言われて
ガマンできるか」
それからふたりして、ほぼ同時に
果てて、折り重なって息を整えて
いたが、天羽が這いだして からだ
を起こすと、隣で下腹部を押さえ
た半井が冬の猫のようになって蹲っている。
「はあ? いや、半井、腹押さえる
のは俺、ですよね?」
腕に手をかけて覗き込むと、相手
は歯をくいしばって冷汗をにじま
せている。尋常ならざる事態だと
思って額に手を触れてみたが、熱
はなさそうだ。
「神経障害性疼痛?」
尋ねると半井は首を横に振り、眉
根を寄せて、まぶしそうに天羽を
見上げた。
(ああ、俺この表情にはもう)
あるいは俺の名前には、何かの呪
いがかけられているのかもしれな
い。
ファンタジックな空想はさておき、
目の前の急病人を救済するのが使
命というものだろう。緊急人道支
援だ。
しかし、この状況で俺にどうしろ
というのか?
半井に上掛けをかけながら
〈救急車!〉と発想したが、消防官
の父親の顔が浮かんで首を振った。
(いや、それはマズイ)
当番医にタクシーで、と、枕元の
電話器に手を伸ばそうとすると、
腰に手を触れられた気がして振り
かえった。
「天羽、僕のジャケット取って」
半井がクロゼットを目で示した。
取りに走ろうとして足がもつれ、
転倒した。
(落ち着け、俺!)
自分に檄を飛ばしながら、スーツ
の上衣を渡すと、受け取った大貴
が内ポケットからタブレットのブ
リスターパックを取り出した。
「水…」
出回り始めたペットボトルの飲料
水を半井が部屋に持ち込んだのは、
このためだったか、と思って手渡
すと
「天羽、少し落ち着け」
半井に声をかけられた。
「あ、はい」
「持病なんだ」
最初のコメントを投稿しよう!