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HIVの新聞記事が頭の中を駆け
巡った。
「半井、まさか」
プロテクトなしでの行為の早計さ
に血の気が引き、震える手で錠剤
のパックシートを裏返し、見──
「天羽…」
切迫した声に振り返った。
「バカだめだ、ここで吐くなっ!」
上掛けをとっぱらい、シーツでく
るんで、シーツごと二度目の姫抱
きをしてレストルームに 直行した。
(頼むよ。俺、マジ、
スカトロはカンベン)
天羽は素裸のまま、大貴を抱えて
便座の前に座り込み、シーツにく
るんだ半井を膝の上に抱いて、顔
を便座に俯けてやった。
しかし、相手は胸を波うたせて往
生している。
「ったく、バッカじゃね。早く吐
いちまえよそんなもん。
抗うつ剤には
フェノバルビタール
とか混ざってて依存性が
生じるんだよ。
中毒になるっての。こっちは
あんたにケツの穴に突っ込まれ
たんだ。
口に指突っ込むが、後で文句
言うなよ」
指2本を舌のつけ根めがけて差し
込むと、溶けかけた白い錠剤と黄
色い胃液が吐き出された。
半井が気分の悪さを訴える度に、
彼が必要以上に便器の中に顔をつ
っこまないように胸を支えてやり、
背をさすってやった。
やがて吐き気が間遠くなり、半井
の頬に血の気が戻った。
三度目の姫抱きをしてベッドに連
れ帰ってやりたいが、尻は冷える
わ、足は痺れるわ、おまけに、か
らだのあちこちがベタベタしてい
た。ため息がでた。
胸に抱き、腕の中にいて欲しかっ
た相手は、今、胸に抱かれて腕の
中には居るが…
(トイレって、くそ)
だが、胸にもたれて 瞳を閉じてい
るパートナーの美貌に目が向いた。
(綺麗だよなあ)
どこをどうしたら、こんな男が生
まれるのだろう?
きっと母親は、とびきりの美人だ
ろう。
どんなにみっともない状況下でも
綺麗な奴は綺麗なんだな。
天羽は大貴の髪をそっとなで、唇
で触れた。相手は気付いたのか気
付かないのか反応がなかった。
俺がもし、この男みたいに整ったルックスだったらエンカウンター
率めちゃめちゃいいだろうな。
よりどりみどり、やり放題。
想像してニヤニヤした。
なのに、この男は、なんでこう常
に苦し気なんだろう?
気付くと瞳を見開いた半井が、じ
っと見上げていた。
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