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「西と東で呼び名が違うんです。
あの、もういいですか?
免許証、返してもらっても 」
(では、本当にシリウスには
ふたつの和名が…)
「ああ。ありがとう。
写真、可愛いね」
「可愛い? そりゃどうも。 女の
子みたいですか? 俺、写真は
OK だけど、動画はカンベン」
レスポンスの良すぎる嫌いはある
が、過去にしたか、されたかした
行為を にれかむような言葉の調子だと思って、大貴が少年に訊くべきことを訊いてしまおうと決心した時、陽が先を越した。
「ヒロさん、俺、会ったら訊こう
と思ってたんですけど、なんで
指定が農水省?
もらった手紙に、新宿区までは
書いてあったから気をきかせた
つもりだったんだけど」
「確かに…新宿アルタ前でも、
高田馬場BIG BOX でもよかった
けど、外務省に用事があった
から、たまたま。
それより僕も
妙なこと訊くけど…陽くん、
男の子、だよね?」
「はあ? 生まれた時から
男ですよ 俺。 ちぇっ、この声
ですか? 地声です。これ」
「免許証も確認させてもらった
のに心外だったらすまない
けど、電話で話した時
男の子にしては …って
思った。だったら
ゴメンナサイかなって。 僕は
異性愛者ではない」
「だったら言いますけど、俺は
同性愛者じゃない」
秘匿すべき事象の匂いでも漏れで
たか、外務省の駐車場、警備員詰
め所から、制服姿の人影が、スペ
ース内の車のナンバーを確認しな
がらこちらに向かって歩いてくる。
いつまでも、ここで立ち話はでき
ない。
「ヒロさんは、ここへは
どうやって来たんですか?
交通手段の事ですけど」
「地下鉄で…」
「俺はコイツで来たから、少し
走って場所移しましょうか?
あなたはクールでいい感じだし
マジでタイプだから、俺と
しては 一局お願いしたいな」
(いきなりのスマッシュ)
だと、大貴は思った。
スマッシュの原義は〈打ち砕く〉
だが、大貴は、昼日中、変声期前
の中学生に「やろうぜ」と誘いを
かけられた人妻のような気分にな
った。
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