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「ジャケットを貸しますから、
眼鏡 はずしてメットつけて、
ケツに乗ってください」
陽のバイクマシンは、丸目と呼称
される丸型ヘッドライトがレトロ
な雰囲気の、黒のネイキッドで、
車体に比して大きな油槽が目をひ
き、タンク両サイドに、タンジェ
リンオレンジで、当時流行りの、
横になびく炎の意匠がほどこされ、それは太陽の紅炎を連想させた。
前輪に比べて後輪が太く、それが
見る者にタフな印象を与えていて、バイクマシンというより、オートバイというワードのほうが似つかわしい感じがした。
タンクのイラストレーションの原
義はプロミネントで〈卓越〉だが、マシンのフォルムは齢若い邦人の心根を感じさせて、大貴は、この少年が抜きんでているのは、おそらく親切心だろうと思った。
陽から貸しつけられたヘルメット
を着けると、大貴は視界をさえぎ
られた。
「僕には大きすぎる」
「それは言わないでください。
気にしてんです。俺、
頭のサイズ。トレーナーも
首回りに気は使うしで」
「大きいんだ」
「立体的と言って欲しいな。
おまけに、中高年垂涎の
篤頭なんで」
言いざま陽は右腕を伸ばし、青年
に羽織らせた自分のジャケットの
胸ポケットに手を突っこんだ。
大貴がうろたえて身を引くと、陽
の手にクリーム地に紺のペイズリ
ー柄のバンダナが残った。
陽は半歩進み出て、花嫁にベールをかぶせる名づけ親のようなしぐさで、メットをはずした大貴の頭部にそれをかぶせ、更には看護士が傷を覆うように巻きつけようとして手を動かしている間、青年は緊張し、不安げな表情をして、陽にされるがままになっていた。
(この男のこの表情の
ガル数はヤバイ)
陽は、喜悦の波が滝のように自分
の下腹部に流れおちるのを感じた。
この後、メイクラブに こぎつけた時のベッドでの相手の顔を想像すると、めまいをおこしそうだった。
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