シリウスの伴星

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「大丈夫」 「そんな…大丈夫って 根拠でもある?」 「根拠はないけど、事情がある」 「そうか、分かった。陽くん、 ノンケだけど、こづかい稼ぎに ってこと?」 「ヒロさん、それも違うよ。 こづかいてか、生活費なら俺、 ちゃんとバイトしてますもん」 「複雑なんだね」 「至ってシンプルな話ですよ。 相手には大抵意外な顔を されるんだけど、俺は男を 構いたいタイプ」 大貴が吹き出した。 「陽くん、君、タチって…」 「笑いましたね? 笑ったよね。 強がりと思ってる」 「ごめん。あくまで、 男を なの?  男に、じゃないの?」 「だから俺、最初(はな)から男めあて じゃないんですって。 勃っちゃう相手が、どういう わけか解剖学的に男なんだ」 「最初に肉体の現象(フェノミナ)が あるわけだ。自分のからだが 相手を評価(サーベイ)して くれるんだったら…」 「そいつは便利とか思ってる でしょ? どこかで刷りこみ 違いが起こったらしいとは 自覚してるけど、そんな便利 とかってもんじゃない」 「言いよられたりはする?」 「いや、俺がたまたまそいつを 見る。ってか発見する。 それで単純に、やりたいって 思う。力づくは嫌いじゃない けど 無理強いは好かないし、 ここは下手(したて)に〈させて〉 って頼む。で 相手驚く、 もしくは戸惑う、拒否される、 逃げられる、追いかける、 殴られる。 少し手ごたえのある 相手だと、ひっくり返されて ツッこまれる」 「逆の目にあうわけだ」 「ずっとこのパターン。 おっかしいっしょ。 タチっぱなしなのにウケ ばっかって。まあ でも、 流れでウケますけどね」 「ウケるんだ」 「気楽っちゃ気楽ですもん。 なりすましウケって、確かに こづかい稼ぎになりすまし。 じゃない、なりますし」 平日の新宿御苑はのどかだった。 庭園のガゼボのベンチに並んで腰 をかけ、普及しつつあるプルタブ の清涼飲料缶をそれぞれ手にして、 ふたりは自身の概略画(ラフ)を交換して いた。 「陽くんは自分のセクシャリティ について悩んだことはない?  性愛の相手に、どの性を求める かについて…」 「悩む? 何をですか?  セクシャリティは自分で 選べない。だったら与えられた カードで、人生めいっぱい 楽しむしかない。当然 コンプライアンス (社会規範遵守)に配慮し、 コンプリケーション (厄介な事態・面倒)には留意 する。常識でしょ?」 「それで うまくいった? うまくいってるの? うまくいくと思う?」
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