一騎打ち

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一騎打ち

「……誘い込まれたか」 「難儀だな。誘われているとわかっていても来なきゃいけないのは」 3日後。 王国は軍全体を動かす大作戦を決行していた。 目標は、諸国連合のバランサーとなっている軍。 そのために、まず両翼で押し引きをしてもらう。 今までの戦いで諸国連合は、押してくる相手には耐える動きをして増援を待つ場合が多いが、王国が引き目で弱気な動きをしていると追ってくる傾向がある。 誰もその間に入ることがなければ追っていった部隊が孤立し、退けなくなるのは予想できる。 そしておそらく、ヨルの父はこれを無視できない。 普段であれば、飛び出した軍が悪いと見捨てることも出来ただろうが、ここまでヨルの父の軍は全て補助に徹している。 ヨルを逃がしたことによりそういった役目を押し付けられていると見るのが妥当だ。 あまりにも、負担が大きすぎることをずっとやっているのだから。 その予想が当たっていたかはともかく、結果的に接触することには成功した。 「お父様……」 「!? なぜここにヨルがいる!? ヨルに戦闘能力は……!」 そこまで口にしたヨルの父はふいに危険を感じ、身を翻す。 その一瞬後、音もなく、地面から土の槍が突きあがった。 「父が死ぬのなら、最後にその姿を見ておきたいんだと。俺にはわからないが」 「……ならあの魔法は不適切では?」 「戦場で隙を見せている相手に攻撃を仕掛けない方がどうかしてる。どうせ避けられるとは思ってた」 自然と話す2人だけがそれぞれの軍から突出し、他の者たちは下がっていく。 「このような有利な状況で一騎打ちを受けてくれるのかね」 「まぁ、この状況にした時点でこっちの勝ちだ。一騎打ちの結果がどうあれ、大局は変わらないだろう。だけど、俺も半年間ヨルの先生をしてたんだ。できるだけ望みを叶えてやろうとするのは当然だろ?」 「先生……。ということは、貴殿が噂に名高い『王女の師匠』か」 「ん?」 「はは! うちの娘もよくやったものだ! まさか『王女の師匠』を味方につけているとは」 愉快そうに笑うヨルの父だが、ライヤはそんなことを気にしていない。 というより、そこまで気が回らない。 「『王女の師匠』……?」 「ご存じないか? うちにも噂が流れてくるくらい有名な話だ。天下無双と恐れられる王国王女に平民でありながら戦い方を教えた者がいると。そしてその男が学園で教鞭をとっているとか。次世代が育つのを恐れているのだよ」 いつの間にか世界規模の有名人である。 「『王女の師匠』殿に頼みが」 「……ライヤだ」 「ライヤ殿に頼みが。俺が負けた場合、後ろの兵たちの投降を受け入れて欲しい」 一転して軍人の顔になったヨルの父はそんなことを投げかける。 「今投降するのと何が違う」 「指揮官を落としているかどうかでそちらの評価も変わるだろう。諸国連合側も俺が死んでいなければ投降を裏切りと捉えるだろう。何より、今投降したところで俺の死は変わらないだろう?」 「まぁ、想定内だ。それでいいな、爺さん」 「王国軍大将メンデスの名を以て保証しよう。お主の軍の無事は保証する」 「名高きメンデス大将までこちらに来ているとは。軍人として誉れと言えるか?」 「心配せんでも、わしに出張らせたことより、そこの小僧と戦ったことが誉れとなることになる」 「はは、間違いない」 決闘と違い、開始の掛け声などはない。 互いが間合いを調整し、どちらかが仕掛けるとなればいきなり始まる。 「最後に一つ聞いていいかい?」 そんな緊迫した状況でもヨルの父は終始、余裕を保っている。 「ライヤ君はうちの娘を貰ってくれるのかな?」 「その予定はないです。好きな人がいるので」 「……そこは嘘でも肯定するところじゃないかな」 「必要ない嘘はつかないことにしているので。俺からもいいですか」 「なんだい?」 「お名前を伺っても?」 「……後で娘にでも聞くと言い。敗戦の将の名なんて覚えておくものではないよ。君にはこれからもっと覚えなければいけないことがあるのだから」 そうこうしているうちにライヤの間合いに入る。 同時に水魔法と土魔法の複合魔法で泥を操作。 泥の津波がヨルの父を襲う。 その波が一瞬で凍る。 お返しとばかりにライヤの泥の波の3倍もの規模の波がライヤを襲うが、一部を凍らせてそこをぶち割って潜り抜けることで回避する。 「ちっ……!」 ヨルの父であり、国王の盟友であるという。 どうせ強いだろうと踏んでいたが、その予想が間違いでなかったことにライヤはいら立ちを隠せない。 得意な魔法の魔力制御による乗っ取りが簡単にいかないことを感じ取っていた。
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